第三者による観測結果

「用事がないならさっさと家に帰って勉強でもしてろ。保険室は暇でも私は忙しいんだ」


仮病をしようとする生徒を追い出し、雑談の場と保健室を考えている輩を排除すると、よ

うやく落ち着くことが出来た。


(まさか保険医がこんなにも大変とは思ってなかった)


就職前に舐めていた勢にとって、この職場での毎日はかなり精神にも肉体にも響いている。

軽く目をつぶると、飛びそうな意識を抑えて私は再びパソコンに向き合う。

トントンと保健室の扉が鳴った。


「入っていいぞー」

「失礼します」

「確か・・・神崎だったな。どうした?」

「ちょっと相談したいことがあって・・・」

(またか・・・)


この男勝りの性格と保険医という立場上、こういったことが女生徒から頻繁に言われる。


「どうせ暇だったからいいぞ」


神崎のような生徒に「忙しい」と言ってしまうと、引き下がってしまうことは目に見えていることだから、適当に嘘をついた。


「えっと・・・ずっと前から気になっている男子がいるんです。2年生になってからも一緒に登下校してるんですけど・・・」

(30手前への拷問だな)

「そしたら最近になって私のクラスに転校生が来て、そしたら転校生とその人が小学校の時の友達だったらしいんです。でもその人はあんまり覚えてなくて・・・」

「ふむ・・・」



ちょっとしたドラマみたいな話だな。


「転校生はすごくいい子なんですけど。その子への押しが強くて、どうしても仲良くできなくって。どうしたらいいですかね?」


知らんわ!と言いたい気持ちを抑えて、軽くアドバイスをしてみることにした。


「その転校生の子は神崎がその子を好きなのは知ってるのか?」

「多分ですけど」

「だったらお互いに黙ってないで、口に出してライバル宣言でもしたらどうだ?その方がライバルでも友達でもやりやすいと思うけどな」

「そう・・・ですかね」

「まあお互いに歩み寄れとしか言えんがな。神崎もライバルとはいえ仲良くはしたいんだし」

「そうですね。相談聞いてもらってありがとうございます」


礼儀正しく私の頭を下げると、神崎は保健室を出ていった。


(これでようやく仕事が出来る)


パソコンのタイピング音と時計の秒針だけが保健室で聞こえてくる。

先程の神崎の相談で爽やかな気持ちにでもなれたのか、仕事の進みがかなり早い。

すると今度は先程よりも小さめの音で保健室の扉が鳴った。


「入っていいぞー」

「失礼します・・・」

「えっと・・・君は・・・」

「初めまして2年1組の二色小夜って言います。最近転校してきたばかりなので覚えてなくて当然かと」

「私は望月文香。この学校で保険医やってるから、体調崩したらいつでも来ていいからな・・・って言いたいんだけど、今日はどうしたんだ?」

「えっと・・・なんて言ったらいいんでしょうか・・・」


教師である私への話ということなら、恐らく相談かなにかだろう。


(それに確か1組の担任は男だったな・・・)

「何か話したいことがあるんだろ?世間話程度に聞いてもいいぞ」

(仕事終わるかな・・・)

「それなら・・・小学校の頃に好きになった人がいるんですけど、その人がたまたま同じクラスになって・・・」

(聞いたことがあるような・・・気のせいか)

「その人と再開して少し話したら、やっぱり好きなのは変わってなかったんですけど。その人に仲がいい女の子がいたんです」

(・・・・・・気のせいか)

「3人で登下校したり、お出かけもしたら、多分ですけど、その女の子もその人が好きみたいで・・・でもそうやってピリピリするよりは仲良くなりたいと思っているんです」

「・・・恐らくだけど、その女の子も同じことを考えてるんじゃないか?そうやって歩み寄ろうとする二色なら仲良くしたいと思うぞ」

「そう・・・なんですかね」

「どっちにしろ、二色がそう考えてるな、あとは行動するだけだ」

「ありがとうございます。先生に相談してよかったです」

「そう言ってくれるなら幸いだよ」


二色も頭を下げると、保健室を後にした。


(今度こそ仕事しないとな)


閉じていたパソコンを開き、再び仕事を進める。

・・・トントン


「・・・入れ」

「失礼します。どうしてそんなに不機嫌なんですか・・・」

「・・・帰れ」

「顔見てどうして退出を要求されるんですか」


この生徒、篠田響という男が私はあまり得意ではない。

困っている人がいたら絶対に助けないとだと思ってるし、それで実際に学校に関係なく街規模で有名なのだ。


「ちょっと相談したいことがあるんですけど・・・」

「ダメだ。忙しいから帰れ」

「・・・最近クラスに転校生が来たんです。そいつが小学校の知り合いで・・・って話は別にいいんですけど」

「食い物にできれば過去なんてどうでもいいからな」

「・・・・・・そうしたら最近になって、俺の友達の女子と少し雰囲気が悪くなってる気がするんです」

「俺を取り合うなら、もっと目の見えない所で醜い争いをしてろってことか」

「先生の中での俺悪魔じゃないですか!」

「え?違うのか?」

「違いますから!それで俺はどうしたらいいんですかね?」

「本人たちが仲良くなる気があるんだ。黙ってハーレム王してろ」

「ひとつの単語も先生から読み取れなかったんですけど」

「黙って今まで通りでいろ。いい人をするのもいいが、動かないことで上手くいくことだってあるんだよ」

「そういうもんなんですかね・・・」

「分かったら帰れ」

「ちょっと釈然としませんけど・・・ありがとうございました」


私以外の人がいなくなった保健室で、私は忌々しく呟いた。


「持ち帰り確定か・・・」

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