ラグナロクの天気予報
「本当に悪かった。まさか全く進んでないとは思わなかった」
園内で昼食を食べながら、響はそう言って謝った。
「そんなことないよ!私も二色さんも結構時間かかったから!ね?」
「え、あ、はい!」
私たちの必死のフォローに、少しは落ち着きを取り戻してくれたようだ。
「午後はどこに行きますか?私も響くんも行きたい場所は行けましたから、神崎さんの行きたい場所でいいですよ」
「私の行きたい場所?うーん・・・そうだな」
園内のアトラクションを見ながら、神崎はしばらく考え込んでしまった。
「お化け屋敷・・・とかはどうかな?」
「あんまり行ったことないけど、俺は別にいいよ」
「私も別に構いませんよ・・・ええ、もちろん」
響と二色も賛同してくれたようだが、明らかに二色の様子がおかしい。
そう、まるでジェットコースターに乗る前の私のような表情を浮かべている。
「それならそろそろ行こうか」
「え」
「少し休憩してからでもいいと思うが・・・まあいいか」
「え」
(今のところ1引き分け1敗だからね。容赦はしない)
悪魔のような含み笑いを混じえながらも、神崎は2人に笑顔を向けて歩き出した。
「って行ってもすぐそこだったね」
西洋風の遊園地ではかなり浮く、日本の古風の作りになっているお化け屋敷だ。
他のメルヘンだったり、ファンタジーな雰囲気とは全く違う「怯えさせるために作りました」という雰囲気を放っている(実際そうなのだが)。
「こちらで説明を終えた後、団体様でスタートしていたきますね」
お化けに危害を加えないことや途中でのリタイアの方法などの基本的な説明を聞いた。
「では頑張ってください!」
中に入ると、廃ビルのような暗い部屋になっていた。
「誰から行く?」
「一応男だし、俺から行こうかな」
こういうのはあまり怖くない響はどんどんと進んでいく。
ここで神崎は一回目の状況作成を使った。
響について行くように神崎が歩き、その後ろを二色が歩いている。
すると壁から突然・・・
「グァアアアアアアア!!!」
「キャァアアアアアアアアアアア!!!!」
あまりの叫び声にキャストの人まで驚いているようだ。
「今のはビックリしたな・・・通った道から出てきたもんな」
「キャストなんだからしっかりやりなさいよぉ・・・」
すでに敬語が出てこなくなったようで、効果は抜群のようだ。
「響くん・・・」
腕を掴むようにして、響に二色が飛びついてきた。
その状況を逃すまいと、再び神崎は能力を発動した。
神崎が2人のすぐ後ろを歩くようにしていると・・・
「ガァアアアアアアアアアアアアア!!」
「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
横から再び化け物が現れ、二色の目の前で叫んだのだ。
慌てて後ろへと二色が下がっていく。
「ビックリした・・・あっ、ごめんね」
とはいえ私も驚き、少し落ち着いたところで軽く響の手を握った。
「本当に怖いなら別にいいよ」
「それなら・・・」
ここにきて状況作成の真価が発揮されている。
そもそも状況作成を一言で言うならば「命令」なのだ。
自分のイメージを他人に強要させているわけだから、少ない人数の方が上手くいくし、大雑把な方がイメージも簡単だ。
だからこそ神崎はキャストに対して「飛び出すタイミングが少し遅れてしまう」と「二色さんの前で飛び出す」を使ったのだ。
これだけで二色は響から離れ、神崎は響と手を繋ぐことが出来た。
これが1番簡単だったとはいえ、さすがに二色が可哀想にもなった神崎だったが、なんとか最後までやり遂げた。
「ここのお化け屋敷おかしいです!どうして私を驚かすようなタイミングでしか出てこないんですか!」
少し露骨すぎた神崎の状況作成に二色はかなりご乱心のようだ。
次はもう少し穏便なやり方にすると決め、神崎は残念に思いながらも響から手を離した。
「よし!乗りたいものには乗れたし、後は順番にまわろうか」
「空いているものに乗ればたくさん乗れるし、それでいいと思うよ」
「・・・ふぅ・・・私もそれでいいですよ」
それから私たちはコーヒーカップや観覧車といった定番なアトラクションを満喫することができた。
さすがに二色も疲弊しているようで何もしてこなかったし、神崎も疲れていたので戦いはここまでとなった。
「今日は本当に楽しかった!」
「私も楽しかったよ。色々と知ることも出来たから」
響の小学校時代の話とか、どうやら二色が最強のライバルであることが神崎にとっての最高の報酬になった。
「今日は本当にありがとうございました。これからも仲良くして欲しいです」
「そうだな。そのうち、もう1回くらい来たいな」
(今度は篠田くん(響くん)と2人で!)
そんなことをお互いの心の中で思いながら、今日はお開きとなった。
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