感情幸福理論値

「次は何に行く?」

「私、迷路とか行ってみたいです」


二色はパンフレットを見ながら、謙虚ながらに言った。

二色からの提案に、神崎は「考えでもあるのでは」と思ったが、逆に好都合だったようだ。


「私も気になってたし、いいかもね。篠田くんは?」

「もちろん、行きたいなら付いてくよ。さっきは俺の行きたい所に付き合わせちゃったしな」


ここからだと少し離れた位置にある迷路に向かうことになり、神崎は二色にいくつか質問してみることにした。


「篠田くんって小学校の頃どういう人だったの?」

「うーん・・・今よりも明るかった・・・と思いますよ」

「子供っぽかったってこと?」

「そんなところだったと思います」

「神崎はどうして俺の小学校の頃の話なんて知りたいんだ?」


当然、神崎の頭の中には返し方なんていくらでも思いつくのに、意識していると言葉が出てこない。


「と・・・友達の昔の話って気になるでしょ?」

「そうなのか?まあ、そう言ってもらえるとなんだか嬉しいな・・・」


少し恥ずかしそうに顔を背けるその態度が、何だか見ている神崎まで恥ずかしくさせてきた。


「・・・・・・」


2人だけの空間で会話をしていると、冷たくも、笑顔で神崎たちを見る二色がいた。


「あっ、ごめんね。二色さんだけ蚊帳の外にしちゃって」


神崎がそう謝ると、二色は再び2人に笑顔を向けてきた。


「気にしてませんよ。やっぱり2人は仲がいいんですね」


しかし神崎の目には、見えるのはずのない炎が二色の後ろにあるように思った。


「確かに神崎とも仲がいいが、二色とも俺は仲良くしたいな」

「そう言ってくれると、嬉しいです・・・」


神崎も二色も、たまにどうしてこんなタラシを好きになってしまったんだと思う。


「ここが目的地みたいですよ」


二色が指を指す方向には「鏡の森」と看板がかかったアトラクションがあった。


「最高記録出してみたいな」

「私はゴール出来るかだよ・・・」

「自分で言ってなんですけど、私もあまり自信は無いですね」


三者三葉の反応をしながらも、3人は「鏡の森」へと足を踏み入れた。


「こんにちは!このアトラクションは一人用です!順番に列にお並びください」

「一人用かー・・・」

「いや神崎、逆に考えるんだ。競争出来るぞ」

「感性がまるで小学生ですね・・・」


呆れ半分になりながらも、この状況を私は少なからずチャンスだと感じていた。

しかしルールやシステムを聞いて、計画を実行出来ると神崎は思った。

ここで神崎の「状況作成」が役に立ってくる。

3人とも別の場所へと案内され、そこで神崎、二色、響はそれぞれ説明を聞いた。


「では頑張って森を抜けてください!」


楽しそうなアナウンスの声を聞きおわると、神崎は歩を進め、擬似的な森の中へと足を踏み入れた。

早速能力を・・・使うことは無い

あくまで現状、観測可能な状況を作ることが出来る状況作成という能力。

響はともかくとして、神崎がこのまま響と合流が可能な場所まで移動出来なければ能力は不発に終わってしまうのだ。

しかし迷路が得意ではない神崎、そこで彼女はとある行動をした。

そうして神崎は駆け出した――――


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「では頑張って森を抜けてください!」


アナウンスを聞きおわると、二色は迷路を歩き出した。

こういう時には二色の能力って弱い。

注意事項を話してくれた案内の人に能力を使っても全く意味は無いし、アナウンスなんてもってのほかだ。


「・・・どうしようかな」


さっきは響の手前苦手と言ったが、恐らく得意な部類だろう。


「私がスタートしたのが右側だから、ゴールはともかくとして、ただ直線的にゴールを目指すより少し中心に近づいて響くんと合流したいかな」


そんな独り言を呟きながら、私はイメージ通り身体を動かしていく。

「ただ右手法に頼って走る」ではなく、地理的に自分の位置を把握することが迷路においての安定的なゴールの仕方だ。


「さすがにこの年でそんなことする人はいないとは思いますけどね」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「はぁ・・・はぁ・・・」


少し前にテレビで知った「右手法」を使うことでただでさえ少ない体力は減ったものの、確実にゴールに近づいている。


(このまま行けば・・・)


私は壁に右手を当てると、再び歩き出した。


〜数十分後〜


完全に失敗した。

確かに右手法を使えばゴールまでは迷わず進める。

しかし肝心の篠田くんとの合流の難易度を上げていたのだ。

いくら状況作成が使えたって、自分が右手法しか使わないなら出会う確率はグンと下がってしまう。


「あれ神崎さんの方が速かったんですね」


神埼とは違い、疲れた様子もなく二色さんがゴールから姿を現した。


「お疲れ様。私もさっきゴールしたばかりだよ」

「そうでしたか。ところで響くんは?」

「結局出会わなかったよ。その口ぶりだと二色さんも?」

「はい、もしかして先にゴールしてたりするんですかね・・・?」


動くことも出来ず、2人で頭を抱えていると、アトラクションから1案内の人が出てきた。


「すみません、先ほど男の方と一緒に迷路に入った方達ですよね?」

「そうですけど・・・」

「あー・・・実は先程の男の人がまだゴールしてなくて」

「そうなんですね。でもまだあまり時間は経ってないし・・・」


すると案内の人は再び気まずそうに話し出した。


「それがまだほとんどスタート地点でして、こちらもリタイアしない限りは強制終了させられなくて・・・出来ればもう一度入って誘導していただけませんかね・・・?」

「「本当にごめんなさい。すぐに行ってきます」」


迷路の結果、みんなで仲良くゴールした(2人は2週目)

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