この物語における前提
実習も二日目となった朝、彼らは朝の朝礼に励んでいた。
そして今日も店長は快活そうな笑顔を朝からしている。
「みんなおはよう!世間ではお休みの今日ですが、うちは皆様に笑顔を届けるために頑張りましょう」
「ブラック企業みたいな朝礼のあいさつをするな」
今日も友樹のツッコミは安定している。
「今日の役割分担だけど、昨日と変わらず響くんにはフロア、女子二人には厨房を任せようと思うけど、手が足りなくなったら呼ぶかもしれないことだけは分かっておいてね」
「分かりました」
「頑張ります」
2人は返事を返すと、すぐに友樹さんについて行った。
「よし、開店までに会計ともう1つ大事なものを教えておこうかな」
そう言われたが、ある程度の経験があった響はレジの方法をすぐに理解することが出来た。
「これなら1人でも基本は出来そうだね。・・・でもこれが出来れば、さらに客足を伸ばすことが出来るんだよ」
「そんなことが出来る接客方法があるんですか?」
「うん、名付けて笑顔は仕事を幸せにするだよ!」
ブラック企業の社内信条か。
「要するに、今の君に足りないのは笑顔!心から自分が笑顔になればお客さんも笑顔になって帰ってくれるんだよ」
「笑顔ですか・・・?」
響には、接客というものがよく分かっていなく、ピンと来ない。
響はそれでも、そう言われ、とりあえず笑顔を作る。
「それは営業スマイルでしょ。私が望むのは心からの笑顔の接客なの。もう1回!」
「い、いらっしゃいませ!」
「まだ硬い!」
「いらっしゃいませ!」
「・・・まあ妥協しようかな。とりあえず店開くから。今日も頑張ろうね」
店長はそれが出来るのかと言いたかったが、その気持ちを抑え、響は頭を下げて挨拶をした。
「こちらこそよろしくお願いします」
これがブラックなのか・・・実習でそう理解した響は気合を入れ直した。
こうして二日目の実習が始まった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「何この子可愛い〜」
「ちょっとぉ、私が気に入ったのよ」
俺をあいだに挟むようにして、休日を満喫する女性に揉みくちゃにされる。
「すみません・・・仕事出来ないんですけど」
「響くん大丈夫。それも立派な仕事だから」
「セクハラ実習ですか!?」
「響くんっていうんだ〜。可愛い名前」
片方の女性が頬を突っついてくる。
「・・・そろそろ2人にもフロア手伝ってもらおうかな」
何故か悪意を持ったような言い方をするが店長が気になってしまった。
「・・・!ちょっとし、し、篠田くん!」
「・・・何をしてらっしゃるんですか?」
「見ての通りセクハラされてるんだよ」
「だったら抵抗してよ!」
「したら口コミで叩きま〜す」
「いいか響、絶対に抵抗したり口答えするなよ」
唐突に真剣な表情をした店長さんがそう言った。
「この女の子たちはどっちが本妻なの?」
「ただのクラスメイトですから」
「そうです。・・・ただの・・・ただのクラスメイトですから!」
「仲のいい・・・と、友達です・・・」
「どうしてそこまで苦しそうなんだよ。まぁ友達だけどさ」
「だよね・・・」
「ですよね・・・」
2人のその様子に、女性たちはニヤつきが止まらなくなっている。
「・・・そうなんだ。だったらもう少し遊んでもいいよね」
すると女性は響に近づき、強く抱き締めた。
「「なっ・・・」」
「私も〜」
両方から抱きしめられ、思わず響も目を回してしまっている。
「まあこれくらいで満足しておこうかな。それじゃあ買いたいものも買えたし、ともくんにもよろしくね」
「やらんぞ」
「馬鹿夫婦の中に割り込むとか無理だから〜」
「馬鹿って言うなー!」
そのままお客さんは手をこちらに振りながら出ていった。
「さっきの人って友達なんですか?」
「ううん、今日で2回目のお客さんだよ」
それを聞いて、彼らは驚いた。
「それなのにあそこまで仲良くなれるんですか?」
「昔から言うでしょ。昨日の敵は今日の友って」
「お客さんは敵じゃないですよね!?」
神崎も思わず突っ込むが、その調子だと多分持たない。
「それよりも2人は明日のコンペ大丈夫なの?」
「やれるだけはやってます・・・」
「人前に出せるくらいには」
「自信を持って言いきれないならまた勉強のし直しだ。フロアも余裕出来たみたいだしいいよな?」
「うん、頑張ってね」
「2人は大丈夫なんですかね?」
「聞く感じだと、2人ともすごい真剣にやってるらしいからね。明日がすごく楽しみだよ」
「そう考えると、明日で実習も終わるんですよね」
「そうなんだよね。響くんは何が1番勉強になった」
「フロアのことを中心に色々とさせてもらいましたけど、やっぱり・・・」
「やっぱり?」
「上司の尻拭いですかね」
「オーケー戦争だ」
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