神崎みのりと青年の物語

「では隣とスピーキングの練習してください」

最悪だ。

というよりもかなり億劫だ。

いつかはすることだとは思っていたが、やはりどうしても鬱になってしまう。

英語ではクラスメイトと英語で話すスピーキングの練習というものがあり、今日はそれがメインの授業のようだ。

(隣の人は・・・)

普段から黒板か空しか見ておらず、隣のクラスメイトの顔すらも彼女の頭には浮かんでこなかった。

恐る恐る隣の席に顔を向けると、そこには教科書を読みながらこちらを待っている男子が座っていた。

「準備終わった?だったら早速始めたいんだけどいいかな」

「あっ、うん。大丈夫だよ」

久しぶりにまともにクラスメイトと、さらに言うなら男子と話すことに、思わず声が軽く上擦ってしまった。

「俺から始めさせてもらうね」

それからは無駄な会話もなく、指示通りに教科書を読んだり、お題に沿った英会話をした。

「多分そこの発音間違ってるよ」

少し躊躇いがあったが、このまま覚えてしまうことをスルーするのに罪悪感を覚えて指摘した。

「えっ、ごめん、どこ?」

「その彼女に、って所が発音下に下がる発音だよ」

「ん?・・・ごめん本当だな。完全に癖ついてるかもな。ありがと」

「ううん、別にそこまでのことじゃないよ」

元々あまり男子は得意ではなかった神崎だが、彼と話すのは特に何も感じなかった。

その事にに、神崎は少し彼への好感度が上がった。

「そろそろ切り上げてくれー」

英語の教師からの終わりの合図に、神崎も彼も教科書を片付けた。

「終わりみたいだね。今日はありがと」

「こちらこそ、ほかの人から聞いてたのとは違ったから意外だったかな」

「・・・どういう風に聞いてたの?」

自分が男子にどう思われているのかが気になり、神崎はその話を掘り下げた。

「ちょっとキツめの美人って」

次の授業の支度をしながら、こちらを見ずに彼は言った。

その様子はともかくとして、冗談半分だと知りながらも男子にそう思われているのが恥ずかしくなった。

デリカシーや恥ずかしさが、彼にはないのだろうか。

彼女はそんなことを思いながらも、自分の考えていた周りからのイメージとあまりにもピッタリすぎて少し悲しくもなった。

「本当に言ってたかどうかは知らないけど、面と向かって美人なんて言うのはデリカシーに欠けるわよ」

あくまで彼のことを思い、神崎はそんな言葉を言った。

「不快になったなら謝るけど、実際優しいし、キツめって部分は間違ってるな」

美人を否定してこないのが、非常に神崎にとってはやりにくかった。

「また難しい問題の時はよろしくな。それじゃ」

「えっ。ちょ、あ・・・」

私に何も言わせることなく、ほかのクラスメイトの方へとその男子は行ってしまった。

(自分の言いたいことだけ言って行っちゃった・・・)

呆気に取られてしまったが、その態度に異様に腹が立ち、その男子がいると出来るだけ近づかないようにする癖が付いてしまったのは言うまでもないだろう。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ねえ神崎さん、ここの問題なんだけどさ・・・」

「・・・そこは代入する位置が違うのよ」

「ここの問題は・・・」

「そこはそもそも形容詞じゃないから。動詞から見直して」

「ここは・・・」

「しつこいよ。他に友達もいるんだし、そっちを頼りなさいよ」

いい加減に怒りが限界を超え、少し怒気を孕ませながらそう言い放った。

「・・・周りに仲がいい友達いないからさ」

神崎から目を逸らし、彼はごもごもした様子で呟いた。

「反対側の席の子とよく話してるよね」

「・・・・・・」

顔色を青くし、冷や汗をかいている。

どうやら嘘はつけないらしい。

「もしかして気を使って私に声を掛けてるの?だったら本当にやめて」

そんな考えに、神崎は本気の怒りを込める。

そんな侮辱を受けるくらいなら、ずっと一人でいる方がマシだ。

「そういうのじゃないから。神崎さんと話すの楽しいし、何よりも教え方が分かりやすいから」

その様子はどう見ても嘘をついている様にも見えなかったが、逆に違和感すら覚えるほどに真剣だった。

「あー・・・神崎さんって、もしかして男の人苦手だったりする?」

神崎のその様子に、薄々彼も察しがつき始めたようだ。

「べっ、別に大丈夫だよ!」

かなり動揺が出てしまった。

当然だがストーカー(?)に追われるようになってから、少なからず男への嫌悪感は増えていた。

家族や周りに男がいなく、どうしても男子ですら少し話すのをはばかられる。

「それならいいんだけどさ」

「う、うん・・・」

それにしても、どうして彼は何とかなるのだろうか。

(女・・・?)

あほらし

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