戦いに華が咲きし時
「えっと・・・あなたが篠田先輩ですか?」
響が友人と帰ろうとすると、そう言って一人の女生徒が声をかけてきた。
「そうだけど何か用かな?」
セミショートと言うべき短くまとめられた茶髪、大きくパッチリとした目、小動物的な体躯や動きと庇護欲をそそるような容姿からクラスメイトにとどまらず、廊下を通る生徒達からも注目されている。
「誰なんだ。この女の子」
友人からは呆れ混じりの目を向けられる。
「こっちが聞きたい・・・」
思わず頭を抱えてしまう。
「あなたが・・・篠田先輩かぁ」
そう呟きながら、女生徒が響に近づいてくると彼はその女生徒の胸に付いたリボンが1年生の証である青色であることに気づいた。
「何か用なのか?」
「別に用ってほどではないです。ちょっと気になっていたので少し顔を見に来たんです」
いつの間にか手を伸ばせば抱きしめられるほの距離にまで詰められ、近づいてきた後輩は少し八重歯を覗かせながら笑う。
さすがの響も、後輩から距離を置こうとするが、さらに後輩は詰めてこようとする。
「何をやってるの。すごく帰る時に邪魔なんだけど」
「みんなの迷惑になってます・・・」
すると教室のドアから覗いていたクラスメイトを代表するように神崎と二色が響たちに注意をした。
「迷惑になってたなら謝るけど・・・。別にドアの前でもないから素通り出来たんじゃないのか?」
響がそう言うと、2人は少し慌てた表情を浮かべる。
「私はみんなが気になっちゃうってことが言いたかったの!」
「え?あっ、私もです!勘弁してくださいよ」
「そうだったのか。すまなかったな」
「頭下げるまでは要求してないから!」
「そもそも話し始めたのは響くんではないですから。非はほとんどないですよ!」
「ちょっとー私だけハブって、その上で悪者扱いですか」
蚊帳の外になっていた後輩は不満そうに文句を言っている。
「悪者も何も、あなたが篠田くんに声をかけたのがダメだったのよ」
「なんでですか?私は少し気になってたから話しただけですよ。そんなに篠田先輩が誰かと話すのが気になるんですか?」
「それは・・・でもあなたは距離感が近すぎるのよ!」
すると後輩はなにかに気づいたように言い出した。
「あなたがもしかして二色先輩ですか?」
「いいえ、私が二色です。こっちは神崎さんですよ」
「それはすみませんでした。それにしてもこうして噛み付いてきたのが神崎先輩と二色先輩なら納得です」
「どういうことですか?」
「一年生の間でも有名ですよ。篠田先輩にちょっかい出すなら、あの2人を越えないとって」
「「どういうことよ(です)!」」
自分たちの恋が思っていたよりも筒抜けで、広がっていることに2人は思わず大きい声が出た。
「別に篠田くんとはただの友達だけど・・・友達だけど!」
「どうしてそんなに友達を強調するんだ。まぁ友達なんだがな」
「うっ・・・で、でも友達だから変な人と関わって欲しくないって思ってるの」
「そういうことなら問題ないですよ」
すると後輩は、その圧力のある質問にあっさりと答えた。
「きっと篠田先輩とは仲良くなれると思いますし、何よりも篠田先輩が私のこと気に入ってくれるはずですから」
「そんな根拠の無い言葉なんて当てにならないですから」
「先輩方がどう考えていようが関係ないので構いませんよ。未知に対して自分を高めるのではなく、相手を貶めようとする人になんか負ける気もしませんけどね」
まさに炎が見えるような、まさに電流が走るような状況が出来ている。
「まあ、先輩方がどこまで篠田先輩のこと知ってるのかも楽しみですよ」
「自慢げに言ってるけど、俺は君のこと一切知らないからね」
「絶対に負ける気がしないわね」
「いきなり割り込んできた人に負けるほど落ちこぼれていませんので」
完全に何の話かも分からず、そして何よりも自分が蚊帳の外になってしまっている。
「することも終わったので、私は自分の教室帰りますね」
「用なかったんじゃないの?」
「私の名前は葉桜夕です。これからよろしくお願いしますね、響先輩」
「あっ、ああ・・・」
一体なんだったのだろうか
「終わったか?」
「ああ、待たせてすまなかったな」
「いいや、見てて面白かったからよかったよ」
「?それならいいんだが・・・」
そして響は帰る途中に結局、神崎と二色が1番邪魔になっていることに気づいた。
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