結果よりも大事なもの

「・・・よし、これで票は集まったかな」

しばらくの試食会を終えた後、配られていた紙に2人の作品のどちらかを選んで、投票をした。

「結果はどうでしたか・・・?」

二色は緊張した面持ちで店長に問いかけた。

「え?公開はしないよ」

「「え?」」

さとしは察したように、2人に説明し始めた。

「お前説明忘れてただろ。あー・・・すまないんだが、あくまで参考意見だからな。年齢層も見たいから個人情報も書いてあるしな」

「そうなんですか・・・」

神崎はかなり残念そうに呟いた。

「はぁ・・・面倒臭いな。だったら響にでも決めてもらおうかな」

「「え!?」」

明らかに先ほどよりも大きく2人は驚いた。

「どうして俺に振るんですか。2人の努力とか細かい評価をするならさとしさんの方がいいんじゃないですか?」

「・・・俺評価とか苦手だから」

「よくこの仕事受けましたね!」

「・・・そんなに味分かんなかったから」

「パティシエやめちまえ!」

明らかに見え見えな嘘に気づくことなく、響はこの状況を理解出来ないようだ。

「私は篠田くんが選んでくれるならそれでもいいよ」

「私もぜひお願いしたいです」

「なんでノリノリなんだよ2人とも」

しかしこの状況で断れるわけもない響のことだ。

「分かりましたよ・・・」

「曖昧にするのは無しだからねー!」

ついにガヤから野次まで飛んできた。

「個人的な気持ちはなしで行きますね」

一呼吸置くと、響は順に評価をしだした。

「持論になってしまうんですけど、食べ物って味とセンスだと思うんですよね」

それに同意するようにさとしも言った。

「実際そうだからな。食べ物という観点が当然大事にはなるのだが、菓子屋にとってはセンスも同じレベルで重要だ」

「まず味ですけど、神崎の方がよかったです」

「ありがとう。でもまずって何・・・?」

「うん、神崎の言う通り味なら神崎の方がよかったんだけど、センスだったら二色の方がよかったんだよ」

「それってどういうことですか・・・?」

「さっきも言ったけど味もセンスも同じレベルで大事だと思ってるから、今回は本当に両方よかったっていう結論しか出せないです」

「・・・筋が通ってるのが腹立つわね」

「パティシエとしては三流だが、男としては一流だな。ジゴロという意味だが」

「今回は許してあげましょうか。これはこれで面白いからね」

イマイチ話が掴めなかった響だったが、あの結論で許されたようで安心した。

「それじゃあお客様帰して、とりあえず研修終了させないとな」

「最後のお仕事だよ。響くん頑張ろ」

「そうですね」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「3人ともお疲れ様でした。毎年助かっているけど、今年に関しては1番楽しく出来たよ」

「俺からも一言。メインは神崎と二色だったが、最初こそ不安だったんがな・・・」

その友樹の顔に、響は疑問を覚えた。

「最初こそ不安だったんですか・・・?」

「・・・嘘だ」

「締めくくりで嘘ついてどうするんですか!」

友樹も小さな声で「俺もだいぶ分かってきたかも」と呟いているし、お店側(?)としても成長出来たようだ。

「話が逸れてしまったが、やっぱり厨房っていう交流が極端に少ない仕事をしているからか、今回の実習は新鮮に感じられたよ」

「ここまでともくんが肩入れしたのって初めてだもんね」

「うるさいな。とりあえず今回のことを学校生活と言わずに人生の役に立ってくれることを祈ってる」

そう締めくくった友樹に、店長を含めた4人が拍手を送った。

「それじゃあ私も一言って言いたいところだけど、先に3人から一言ずつ言ってもらおうかな。まずは小夜ちゃん!」

「えっ、はい」

二色はそう言われ、少し緊張しながら言い出した。

「たった三日間でしたが、お菓子の勉強を学べ、さらには店長さんや友樹さんにも出会えたりと、本当に多くのことを学べました」

そう言って、二色は頭を下げて「ありがとうございました」と言い、締めくくった。

「そう言ってくれて嬉しいよ。次はみのりちゃん!」

そう言われ、二色とは違い、すぐに言い始めた。

「私はお菓子の作り方をメインで教えていただきましたが、最初こそ戸惑いましたが友樹さんに分かりやすく教えていただきました。こうして接客業まで教えていただけて、二色さんと被ってしまいましたがたくさんのことを学べました」

そう言って神崎も頭を下げて感謝の言葉を言った。

「最後に響くん!いいのを頼むよ」

「プレッシャーをかけないでくださいよ・・・。自分は接客を店長に教わった・・・ん?教わった、いや・・・」

「おい、残業させるぞ」

「そういうところだっての」

そんな店長と友樹とのやり取りに苦笑しながら続けた。

「でも店長には他のことも多く教えていただきました。中途半端な気持ちだった自分のやる気が真剣になっていくのがすごく嬉しかったです」

「合格点ってところかな。それじゃあ私からも」

店長はわざとらしく咳払いした。

「今年は珍しく男子もいたり、3人の背景も面白かったよ。ともくんも今年は本当に真剣に手伝っていたし、私もそうだったよ」

そして店長は一呼吸置いた。

「店としてはここで学んだことをこれからの人生で使ってほしいけど、個人としては今、自分が持っているものを大切にして欲しいかな」

珍しくいい事を言う店長に、4人は拍手を送った。

「それじゃあ、今年の実習は終わり!お土産持って解散!」

3人は笑顔で店から出ようとした。

「響くん」

「なんですか店長さん」

「さっきのコンテストの結果」

店長の言葉に、響は顔に出しはしなかったが、眉を動かす。

「なんのことですか」

「・・・嘘は良くないよねー。別に場を丸く収めるのには正解だったけどさ」

その言葉に、響は特に反応することなく頭を下げて店を出た。

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