転校生と魔女の家(7)

その日からサチは、昼間は“魔女”の家で、お手伝いをすることになりました。

お家の掃除や、食事の支度、洗濯物を干したりするのを、一緒にする代わりに、“魔女”は学校の勉強をみてくれました。

算数の大嫌いなサチでしたが、“魔女”は根気よく分かりやすく教えてくれたので、今まで出来なかった計算も、時間をかければ出来るようになりました。

理科は、実験道具がなかったので、その代わりに庭仕事をしました。

色々な植物の名前、その花言葉、“魔女”の生まれた国での、その植物の呼び名を、たくさんたくさん教えてくれました。

サチは、ひとつひとつの植物の絵を、スケッチブックに丁寧に描いて、名前を書き込みました。

毎日、一枚ずつスケッチが増えていくことを、サチは家に帰ると、お父さんとお母さんに報告しました。


「サチ、明るくなったな」

普段、余り飲まないお父さんが、お母さんと一緒に発泡酒を飲みながら、二階を見やりました。

二階では、サチが安らかな寝息を立てています。

この日は満月で、開け放したベランダから、月明かりが美しく見えていました。

「学校を休ませて、隣に預けるって聞いた時は、どうなることかと思ったけど」

お父さんは、ちょっと苦い笑い方をしました。

「僕らが気付かなかったこと、気付いてもらえてよかったな」

「ええ、本当に」

お母さんは、お父さんの肩にそっともたれて、ベランダ越しに見える、隣の窓の明かりを見ました。

「サチが学校に行ってないって聞いた時、どう思った?」

「え?」

お父さんは、お母さんの質問の意味が分からなくて、聞き返しました。

「私もね、小さい頃、いっぱいいじめられたのよ」

「……ああ、僕もだ」

お母さんもお父さんも、思わず俯きました。

小さい頃の苦い、辛い思い出が、二人の胸をよぎりました。

「……どうして、私たちじゃなかったのかしら」

「え?」

お父さんは、もう一度聞き返しました。

「サチがいじめられていること、どうして私たちが分からなかったのかしら。どうして、私たちが見つけてあげられなかったのかしら」

「うん……」

お父さんは、ぐびっと発泡酒を飲みました。

実はお父さんも、それについては苦い思いを感じていました。

本当なら、親である自分たちが、気付いてあげるべきだったと、考えていたのです。

二人は、出ない答えを、いつまでも考えていました。

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