魔女のおまじないと「おはよう」(1)

「いってらっしゃい」

サチは、お父さんとお母さんと、一緒に家を出ました。

「……気をつけてね」

お母さんが、ちょっと心配そうな顔をしました。

でも、すぐに気を取り直して、笑顔で手を振ってくれました。

お父さんも、笑顔で手を振って、車で仕事に行きました。


サチは、その足でサマンサの家に行きました。

まだ、学校に行くには早いのと、ちょっと緊張するのとで、サマンサに元気をもらって行こうと、思ったからです。

「サマンサ! 今日から学校だよ!」

サチの元気な声に、もうきっちりと髪を結って、朝食も済ませたサマンサが、玄関に出てきました。

「サチ! 早いですね」

サマンサは、とても嬉しそうな顔をしました。

「緊張するの。でも、がんばるよ」

サチがそう言うと、

「がんばるのはいいのですが、無理はしないことを、約束して下さいね」

と言いました。

サマンサは、サチのことを、心の底から心配しているのです。

「……おまじない、してくれた?」

サチが遠慮がちに言うと、

「ええ、ばっちりですよ」

と、サマンサがいたずらっぽく言いました。

そして、白いエプロンのポケットから、小さく折りたたんだ、薄いピンクの折り紙を出しました。

「これを、サチのお守り袋の中に入れておいて下さい。おまじないですから、中身を見てはいけませんよ?」

サチは、大切な物を扱うようにそっと、サマンサからおまじないの紙をもらいました。

そして、いつも首に掛けている赤いお守り袋に、大事にしまい込みました。

その上から、手を当てて目を閉じます。

「おまじない」がどんなものかは分かりませんが、祈りたくなったのでした。

「……いってきます」

サチは目を開けて、お守り袋を服の下に入れて、ぽんぽんと服の上から叩きました。

「いってらっしゃい」

サマンサは、いつもの優しい笑顔で、見送ってくれました。


学校に着くまでの道で、ヒナコちゃんたちに会いました。

サチは元気よく、

「おはよう!」

と、声を掛けて、そのまま走って学校まで行きました。

うんと速く走ったので、真っ白な息が、サチの口から吐き出されました。

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