サマンサの手紙(1)

サマンサが自分の国に帰ってからも、サチは毎日、学校に行きました。

休んでいた間の勉強は、担任の先生の手が空いていない時は、ナナミちゃんたちが手伝ってくれて、少しずつでも追いつきました。


そしてサチは、小学校も中学校も、元気に卒業しました。

高校生になっても、それからも、何年もサマンサと手紙をやりとりしました。

高校を卒業して、自分でパソコンを持つようになってからは、サマンサに、メールを送るようにしていました。

毎日の何気ないこと、さりげない話、サマンサの影響で入った大学の英語学科の話。

そこでも出来た友達の話、そして恋の話も、サマンサにはしました。

だってサマンサは、サチの一番の“友達”ですから。


でもある時、サマンサからの返事が、滞るようになりました。

サチは、自分の大学での勉強が忙しかったのと、「サマンサもきっと、忙しいのかも」と、ぼんやり思っていました。

だから、その手紙が届いた時は、びっくりしました。

封筒の文字は、知らない筆跡の、英語だったからです。


「サマンサに、何かあったんだ!」

サチは、悲鳴を上げました。

帰ってきて、郵便ポストを開けるのは、一番早く帰ってくる、お母さんの役目です。

お母さんは、一番遅く帰ってくるサチを、ずっと待っていました。

お父さんも、お母さんに話を聞いて、一緒に待っていました。


サチは、震える手で封筒を開けました。

優しい薄いピンク色の、便箋を開きました。

知っている筆跡の、文字が並んでいました。

サマンサの字です。

手紙は、サマンサからでした。


「サチ、元気ですか?

大学での勉強は、順調ですか?

サチに、大切なことを知らせなければなりません。

私は今、病床にいます。

風邪をこじらせて、肺炎になってしまいました。

医者には、大事はないと言われています。

ですが、私はもう、うんとおばあちゃんになってしまいました。

体力がなくなり、起きている時間を長く取ることが、大変になりました。

だから、メールが滞ってしまったのです。

ごめんなさい、サチ。

サチは、私の友達ですから、きちんと知らせるべきだと思いました。

わがままを言います。


会いたいです、サチ。


サマンサ」


サチは、便箋を胸に抱いて、大声を上げて泣きました。

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