「さよなら」までのカウントダウン(3)
「……それは、サチ? 約束を果たす日が、来たということですね?」
サマンサの声が、心なしか震えているような気がしました。
サチは、はっとして、椅子の隣に立っているサマンサを、見上げました。
けれどサマンサは、ただただ静かに、にっこりと笑っていました。
白いひっつめの髪も、しわしわの色白な手も、優しい香りがする水色のエプロンも。
エプロンの下の白いワンピースも、お気に入りの薄いオレンジ色のスリッパも。
そして、綺麗な水色の瞳も、全ていつも通りに、優しくサチを見下ろしていました。
「……うん」
サチは、力強く頷きました。
そして、椅子から立ち上がって、サマンサの正面に立ちました。
サマンサの両方の手を取って、ぎゅっと握りました。
「もう、大丈夫。みんなとなら、頑張れるよ」
サマンサが、ゆっくりと身体を前に傾けて、自分のおでこを、コツンとサチのおでこにぶつけました。
「良かった……! 可愛いサチ。大好きなサチ。……もう、大丈夫ですね」
細い腕を一杯に広げて、サチはサマンサに抱きつきました。
サマンサも、サチを力いっぱい抱き締めました。
ぎゅうっと、お互いを抱き締め合いながら、二人は声を上げて泣きました。
嬉しい気持ち、悲しい気持ち、寂しい気持ち。
沢山の色んな気持ちを、数ヶ月間一緒に持って、闘ってきたのです。
緊張の糸が途切れたように、泣いて泣いて泣いて、そしてお互いの顔を見て、笑ったのでした。
最後の日は、サチとお父さんとお母さんだけで、見送って欲しいと、サマンサが言いました。
空港まで行くと言ったお父さんに対して、サマンサは頑固に断りました。
そして、言いました。
「これ以上泣いたら、目が溶けてしまいます」
サチは笑ってしまいましたが、お父さんには意味が分からなかったのでしょう。
ちょっと変な顔をしていました。
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