サマンサの手紙(2)

お父さんとお母さんも、サマンサの便箋の中身を、サチの横から読んでいました。

「サチ、行きなさい。大学には、休学届けを出せばいい。もし、サマンサとサマンサの家族が良いって言ってくれたら、年度末まで傍にいさせてもらいなさい。大丈夫、そのくらいの貯えはあるよ」

お父さんは、サチを抱き締めて、静かに言いました。

サチが顔を上げたら、お父さんもお母さんも、目が真っ赤でした。

「お母さんも、そうさせてもらうのが良いと思う。こっちのことは心配ないから。大丈夫よ、行ってきなさい」

お母さんの目から、涙がこぼれました。

サチは、二人の顔を交互に見て、そしてひとつ、頷きました。


サチは、以前サマンサに教えてもらっていた、妹の家族と住んでいるという、自宅の電話に国際電話をかけました。

サマンサの国は、日本とはマイナス9時間です。

ちょうど、あちらのお昼くらいに電話がかけられると思い、誰か居て欲しい、と願いながら、かけました。

緊張で、心臓がドキドキしていました。

呼び出し音が、長く鳴りました。

「も……ハロー?」

「Hallo?」

「ディス イズ サチ コーリング。……マイ ネーム イズ サチ!」

サチは、自分は英語学科に入って、英語を勉強しているのに、何故こういう時に役立てられないのかと、残念になりました。

「Sachi? ……サチ?! サチなのですか?!」

サマンサの声でした。

酷く驚いて、声が裏返っていました。

「サマンサ! サチだよ!」

サチも、声が裏返りました。

声を聞いただけでほっとして、涙が出そうになりましたが、ぐっと我慢しました。

泣くのは、後にしなければなりません。

「サマンサ、手短に話すね。私、サマンサに会いに行く! 大学は休学して、すぐに会いに行くよ! 迷惑でなければ、サマンサのお家で、妹さんの家族と一緒に、サマンサの傍にいる。お願い、そうさせて!」

一気に言ったら、涙がこぼれました。

サマンサのわがままをきくと言うことは、サチのわがままもきいてもらわないと、先に進めません。

「サチ」

「一緒にいる! サマンサは、私の一番の友達なんだからね! 当たり前なんだからね!」

「サチ……サチ……」


懐かしいサマンサの声が、泣き声に変わりました。

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