天使の降りてくるところ(1)
数日後、サチは機上の人になりました。
パスポートは以前取ってあったのと、たまたまキャンセル席が出て、チケットが取れたのとで、幸運が重なりました。
「ふう……」
飛行機の窓から下に、黒く掛かっている雲を見て、サチはため息が出ました。
時々、激しく揺れますし、シートベルトサインは、オンのままです。
何だか気持ちが、重くなってきました。
ため息と一緒に、雲が吹き飛んでくれないかと、思っていました。
「眠れないの?」
たまたま隣に座った、お母さんと同じくらいの年代の女性が、ひっそりと声を掛けてくれました。
長時間のフライトの場合、時差ボケを回避する意味もあると、眠ることを勧めてくれた人です。
この女性とは、行き先が一緒なのです。
機内のライトが消される前まで、旅に必要な英語などを、教えてくれました。
「……すみません、ため息を吐いてしまって……」
謝った先からまた、ため息を零してしまいます。
「大丈夫よ。全て上手く行くわ。だってほら、見てごらんなさい」
隣の女性が、窓の外を指さしました。
「わぁ……きれい」
いつの間にか雲が開けて、地上の景色が見えていました。
雲の切れ目から、地上の牧場へ向かって、太陽の光線が伸びています。
それはそれは幻想的な光景で、サチは見惚れてしまいました。
「あれはね、天使が降りてくるところなのですって。私の子供たちが小さな頃に、そう言ってはしゃいでいたわ。願い事をすると、叶うのですって」
振り向くと、隣の女性がにっこり微笑んでいました。
「願い事をしてみなさい。きっと、叶うわよ」
隣の女性がウィンクしてみせるので、サチは手を組み、心の中で願い事をしました。
そうしたら、何だか心が落ち着いて、安心出来たような気がしました。
「ありがとうございます」
サチは、隣の女性にお礼を言って、それから目を閉じました。
サチとサマンサ。 斉木 緋冴。 @hisae712
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