転校生と魔女の家(5)
ひとしきり泣きじゃくった後というのは、どうしてこんなに空っぽになるのでしょう。
そして、どうしてこんなに頭が痛くなるのでしょう。
目が溶けて流れるかと思うほど、思い切り泣いた後のまぶたを、ごしごしと拭いていると、“魔女”がサチから離れていく気配がしました。
しばらくして、水に濡らしたタオルを持った、“魔女”が戻ってきました。
「……ごめんなさい」
きちんと挨拶をしたのも初めてなのに、色々と困らせてしまったように、サチは思ったのです。
そうしたら、“魔女”の口から、意外な言葉が発せられました。
「You're welcome.」
「え?」
“魔女”は、にっこりと微笑むと、
「私の国の言葉で、『あなたを歓迎します』という言葉ですよ」
と言いました。
「ユー……?」
「You're welcome.『どうぞどうぞ』という意味ですよ」
「へぇ!」
「歓迎」の言葉の意味は、サチにはまだよく分からなかったけれど、「どうぞどうぞ」の言葉は、何だか“魔女”みたいに、とっても優しく感じました。
少しして、時計を見た“魔女”はにっこりと微笑んで、
「さあ、一緒に行きますから、お家に帰りましょうね」
と、サチの手を取りました。
時間は5時を過ぎ、夕暮れも深くなっています。
そろそろお母さんが、仕事から帰ってくる頃でした。
「……また、来てもいい?」
サチは、ぎゅっと“魔女”の手を握りました。
何だか、この手を離したら、本当にこの世界に独りぼっちになってしまうような、怖さを感じたのです。
「勿論ですよ。You're welcome.です」
さっき聞いた、「どうぞどうぞ」という言葉でした。
サチはそれだけで嬉しくなって、にっこり笑いました。
「……サチ、ちょっと来て?」
仕事から帰ってきたお母さんが、サチを呼びました。
リビングのソファに、二人で並んで座ります。
「……サチ、学校に行くの、嫌なの?」
唐突に、お母さんがサチの目を覗き込んできました。
「学校の先生、とっても心配してたよ?」
こんな風にお母さんと話をするのは、いつ以来でしょう。
お母さんはいつも、仕事から帰ってきても忙しくて、面と向かって話をするのは、一杯飲んでいる時だけです。
「お母さん……あのね……」
「サチが学校に行きたくない理由、お母さんには秘密なのかな?」
お母さんは、目にいっぱいの涙を溜めて、サチの目を覗き込みました。
サチは、何も言えなくなってしまって、俯きました。
そんなサチを見て、お母さんは、ふっと溜息を吐きました。
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