転校生と魔女の家(6)

「お母さんね、自分が何にも知らなかったことに、腹が立ってるの」

しばらくして、お母さんはサチの手を握りました。

びっくりして、サチはお母さんを見上げました。

“魔女”と違って、とても冷たい手でした。

「サチ……いじめられてるの?」

お母さんは、核心を突いてきました。

その言葉は、サチの心にぐさっと突き刺さりました。

サチは、自分では「いじめられている」と、認めたくなかったのです。

でも、真実はそうなのだと、認めざるを得なくなってしまいました。

「……うん」

サチは、また下を向きました。

そうでもしないと、さっきの訳の分からない感情が、またサチを泣かせるような気がしたからです。

「どうしてお父さんや、お母さんに言わなかったの?」

お母さんの声が、明らかに震えました。

サチは、その声を聞いただけで、みじめな気持ちになりました。

「……恥ずかしかったの」

サチは、そう言うのが精一杯でした。

もう、泣くのを我慢するのは、限界だと思っていました。

「……バカね、サチ」

お母さんは、サチをぎゅっと抱き締めました。

声が、泣いているようでした。




「サチを、こんなに可愛いサチを、恥ずかしいと思うわけないじゃない」




ぎゅうっと、苦しいくらいに抱きしめられて、サチは泣きました。

大声で泣きました。

転校して来てから、ずっと抱えていた心の中の重たい荷物が、涙と一緒に流れていくようでした。

お母さんも泣いていました。


サチが泣き疲れて眠ったのを確認してから、お母さんは隣の家にお邪魔しました。

隣の人に、少しの間サチを預かってもらえないか、という相談をしに行ったのです。

お母さんの申し出に、隣の人はちょっと驚いたようでしたが、サチの家の事情や、サチ自身の気持ちを考えてくれて、

「そうした方がいいでしょう」

と、返事をくれました。

お母さんは、隣の人に、心から感謝しました。


サチは、学校を休むようになりました。

毎日、頑張って通っていた学校も、

「行かなくていいよ」

と言われると、うんと気持ちが晴れました。

どうせ、友達も一人もいないのです。

行っても楽しくない学校に、行かなくてもいいと言われたのです。

サチは、とても楽しい気持ちでした。

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