転校生と魔女の家(4)
「鍵を忘れたのですか? 寒いですから、とりあえず私の家に入りましょう」
そう言って、おばあさんはサチの手を引きました。
その温かい手に触れて、初めてサチは、自分の体が冷え切っていることに、気が付きました。
肩にかけてもらったショールも、おばあさんの手も、とても温かく感じました。
おばあさんは、サチの家の隣のお花のいっぱい咲いている庭を突っ切って、自分の家の鍵を開けました。
そう、このおばあさんが、噂の“魔女”だったのです。
でも、サチは不思議と“魔女”を怖いとは、思いませんでした。
だって、こんなに手が温かいのですから。
“魔女”は、すっかり冷え切ったサチの手を引いて、ダイニングに座らせてくれました。
そうして、手早くホットミルクを作って、サチの前に置いてくれました。
「私は、サマンサです。ずっと前に日本に来て、日本で結婚しました。今は一人で、この家に住んでいます」
“魔女”は、とっても良い香りのする紅茶のポットを持って、サチの向かいに座りました。
そして、ほんのちょっとだけ日本語らしくない発音で、自己紹介をしてくれました。
「あなたは、お隣のお嬢さんですね?」
“魔女”は、目尻のしわを深くして、にっこりと微笑みました。
「……はい。サチです」
しわ深くてもなお、優しく温かい“魔女”の笑顔は、サチの冷え切っていた心の中までも、温めてくれるようでした。
そうしたら、またじんわりと涙が出てきました。
「あらあら、どうしました?」
“魔女”は、手を伸ばして、向かいに座るサチの頬にこぼれた、大粒の涙を拭きました。
その手がとても温かかったので、余計に訳の分からない感情が溢れてきて、涙が止まらなくなりました。
サチは、大声で泣きじゃくりました。
学校が嫌いでした。
友達なんか、一人もいませんでした。
ヒナコちゃんもシンジくんも、クラスの子たちも、いなくなればいいと思っていました。
お父さんもお母さんも、何も分かっていませんでした。
みんな大っ嫌いでした。
“魔女”は、困ったように微笑みながら、そっと立ち上がると、サチの隣に座って、ずっと頭を撫でてくれていました。
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