転校生と魔女の家(10)

「お母さんは、私を許していました。お葬式の後、妹が手紙を見つけてくれたのです。そこには、『いつでも帰って来なさい。待っています』と書かれていました。でもその手紙は、私の元には届かなかったのです」

“魔女”は、もう涙を拭くことを忘れたようでした。

後から後から、涙がこぼれていきます。


サチは、“魔女”の言葉の意味を、一生懸命考えていました。

サチにはちょっと難しい言葉ばかりでしたが、“魔女”のお母さんが、“魔女”のことを大好きだったことだけは、何となく分かりました。

そして、そのことをきちんと伝えなければ、“魔女”も“魔女”のお母さんも、辛いままなのではないかと、思いました。


「サマンサ、あのね?」

この時、サチは初めて、“魔女”を名前で呼びました。

呼んでみて、自分でびっくりするほど、口になじんでいました。

それまで、サマンサのことは、苗字で呼んでいたのです。

「あのね、サマンサ?」

もう一度、サチはサマンサを呼びました。

サマンサが、涙をぽとぽと落としています。

こんなサマンサを見るのは、サチもとても辛く思いました。

「サマンサのお母さんに、『ごめんね』って言っちゃだめだと思う」

サマンサが、真っ赤になった目を、サチに向けました。

涙が頬をすべります。

「サマンサは、お母さんに『ごめんね、ごめんね』って思ってる。でも、お母さんが聞きたいのは、『ごめんね』じゃない気がするの」

サマンサは、サチの言葉をはかりかねて、まばたきをしました。




「きっとお母さんは、サマンサの言葉を待ってるの。その言葉に、『You’re welcome.』って、言いたいんじゃないのかな?」




その瞬間、サマンサは大声を上げて、泣き出しました。

そして、サチを抱きしめました。

きつくきつく、サチを抱きしめました。




Sorry!

I’m so sorry , Mom…!!!

I love you!

I love you , so much!


Thank you…Mom...Thank you...I love you...

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る