転校生と魔女の家(11)

ひとしきり泣いた後というのは、何と空っぽになれるのでしょう。

サマンサは泣き過ぎて、頭も喉も痛くなっているようでした。

サチは、サマンサの手をそっと離して、勝手知ったるキッチンでタオルを冷やして、またサマンサの元に戻りました。

何も言わずにタオルを受け取ったサマンサは、目だけでにっこりと微笑みました。

そして、冷たいタオルで、まぶたを冷やし始めました。


サチは、もう一度キッチンに戻って、紅茶のポットとカップを出しました。

やかんに水を入れて、火にかけます。

お湯が沸く間、サチは自分のホットミルクを作るために、牛乳を鍋に移して、弱火にかけました。

ピーッという音がして、やかんのお湯が沸きました。

サチは、細心の注意を払って、ポットとカップにお湯を入れて、温めます。

そして、いい香りのする紅茶の缶を開け、ポットにティースプーン2杯分入れました。

温まったポットに、お湯を注ぎます。

ふたをして、紅茶の葉っぱを充分に蒸らす間、ちょうどいい温度になったホットミルクを、サチ専用のカップに、移し替えました。

砂糖をちょっとだけ、ホットミルクに混ぜます。

紅茶のいい香りが立ち始めたので、サチはお盆にポットとカップを乗せて、ダイニングに運びました。

それから、自分の甘くしたホットミルクを持って、またダイニングに戻りました。


「大変! サマンサ、目が溶けちゃったよ!」

サチは、タオルを外したサマンサの目を見て、笑いました。

だって、目のふちまで真っ赤になって、腫れていたのですから。

サマンサも、にっこりしました。

もう、涙はこぼれていません。

サチは、ほっとしました。

「ありがとう、サチ。あなたには、お礼をしないといけませんね」

泣き過ぎて、ちょっとかすれた声で、サマンサが言いました。

「お礼なんていらないよ。だって、友達だもん。当たり前だもん」

と、サチは笑いました。

「欲しがりさんのサチが、お礼をいらないと言うなんて!」

サマンサが、とても大げさに天井を見たので、サチは思わずふき出してしまいました。

「You’re welcome.じゃないの?」

サチが言うと、サマンサが目を丸くします。

「どうして、そう思ったのですか?」

「お母さんに教えてもらったの! 『どうぞどうぞ』っていう意味もあるけど、『どういたしまして』っていう使い方もあるんだよって!」

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