転校生と魔女の家(12)
サチが胸を張るのを見て、サマンサは笑い出しました。
いつも穏やかに微笑んでいるので、サマンサが大笑いしているのを、サチは初めて見ました。
少しびっくりしたけれど、サマンサの笑い声は、とても心地良いと思いました。
「サチ、新学期が始まったら、学校に行ってみませんか?」
しばらく笑った後で、サマンサが言いました。
その声の、とても落ち着いたトーンにびっくりして、サチは笑うのを止めました。
サマンサの水色の目が、きらりと光ったように感じました。
「……どうしても、行かなきゃならない……?」
サチは、俯きました。
いつまでも、二人で勉強したり、二人で遊んだり、二人で庭仕事したり、二人でお茶をしたり。
そんな風に、いつまでも過ごしていたい気持ちと、学校で友達を作って、たくさん駆け回りたい気持ちと。
でも、やっぱり学校に行ったら、いじめられて独りぼっちになってしまうのかな、という怖い気持ちと。
「どうしても、行かなきゃならないの? どうして?」
サチは心の中で、気持ちが嵐のように吹き荒れているのを、感じました。
初めてサマンサと出会った、あの日の訳の分からない気持ちが、また戻ってきたように感じていました。
「サチ。顔を上げて下さい」
サマンサが、優しい声で言いました。
サチが見上げると、サマンサはとても穏やかな顔で、にっこりと微笑んでいました。
「可愛いサチ。大好きなサチ。私は故郷に帰ります。多分もう、ここには戻ってきません。旦那さまは、ずっと前に亡くしましたし、子供もいません。故郷に戻って、妹の家族と暮らします」
サマンサは、サチの頭を、優しく優しく撫でました。
「サチがいなかったら、私は私を許せなかったでしょう。お母さんが、私を許してくれていたことを、受け入れられなかったでしょう」
ぎゅうっと、サチを抱きしめるサマンサの目から、涙が一粒こぼれました。
「『さよなら』ではありません。いつでも、私はサチを思っています。大好きですよ、サチ」
サチの目から、大粒の涙がこぼれました。
寂しからでも、悲しいからでもなく、サマンサの口から「大好き」という言葉を、聞けたことが、嬉しかったからです。
もちろん、寂しい気持ちもあります。
お別れが悲しい気持ちも、たくさんあります。
けれど、サチがサマンサのことを、「大好き」だと思っている気持ちと同じように、サマンサもサチのことを、「大好き」だと思っていてくれたことが、何よりも嬉しかったのです。
胸があったかくなって、「嬉しい」がたくさん胸の中にしみ渡るのを感じて、サチの涙は、止まりませんでした。
二人は、ぎゅうっと抱きしめ合ったまま、しばらく声も出さずに、泣いていました。
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