魔女のおまじないと「おはよう」(3)
サチは、毎日学校に通いました。
毎朝、クラスの子たちに「おはよう」と、声をかけるのを忘れずに。
今のサチには、それが精一杯だったのです。
挨拶を始めてから、1週間ほどした、ある朝のことです
「おはよう!」
いつも通り、クラスの子とすれ違う時に、挨拶をしました。
すると、
「お……はよ……」
……小さな声でした。
遠慮がちでしたが、でも確実に、サチの耳に届きました。
びっくりして振り返ったら、その子の周りで、次々と恥ずかしそうな顔をして、小さな声で挨拶を返してくれる子たちが、いました。
今まで、一度も話したことがないような、男の子たちまでも。
一瞬、サチは探してしまいました。
あの、意地悪なヒナコちゃんたちが、何処か廊下の隅にでも、隠れているのではないかと。
でも、どこを見回しても、ヒナコちゃんたちの姿は、見当たりません。
サチが毎朝、一番か二番に教室に着くので、ぎりぎりに着くヒナコちゃんたちとは、本当に挨拶だけで、一日を過ごすことが多いのです。
今日はたまたま、忘れ物をしたのを思い出して、家に一度取りに行きました。
なので、教室には何人かの姿がありました。
その全員が、小さな声で、恥ずかしそうに、でもしっかりと、挨拶を返してくれました。
次々に、「おはよう」と。
サチは、にっこりと笑いました。
毎日、一人で寂しさと闘っていたのですから、それはそれは嬉しい出来事でした。
寄って集ってサチを無視したり、悪口を言ったりしていた、クラスの子たちが、挨拶をしてくれただけで、こんなにも心が温まることを、サチは知りました。
小さな変化かも知れません。
たった一言、返してくれただけですから。
でも、一人で闘う寂しさを考えれば、サチにとってはとてつもなく大きな、希望の灯りを、点してくれたのです。
「おはよう!」
ヒナコちゃんたちが教室に入ってきた瞬間、教室の空気が一変しました。
みんな、そそくさとグループを作り、昨日のテレビの話とか、宿題の話をし始めました。
ヒナコちゃんたちは、一瞬変な顔をしましたが、いつも通り、サチのことは無視をして、大声で話し始めました。
サチは、一人で自分の席に座って、静かに本を読み始めました。
その日の放課後、サチは下足箱の中に、メモが入っているのを見つけました。
校舎裏の、花壇に来て欲しいということが、書かれていました。
サチの心臓が、どきり、としました。
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