転校生と魔女の家(2)

「魔女……って?」

その“魔女”という、言葉の響きだけで十分すぎる程、怖さを誘いました。

夕暮れ時ですし、そこにいるのは小学生の子供だけです。

「魔女なんだよ、この家に住んでるの!」

「白い長い髪で、昼間には出てこないんだって!」

「えー!」

サチは、ぶるっと身震いしました。

白い髪の魔女が、夜中にサチの家の廻りを歩く姿を、想像してしまったからです。

「しーらない! 何があっても、しーらない!」

ヒナコちゃんを始めとする、クラスの子たちは、サチのことをはやし立てながら、走って逃げていきました。

サチはただ一人、家の前に取り残されてしまいました。


「ねえ、お母さん」

夜遅く、仕事から帰ってきたお母さんに、サチは話しかけました。

「んー?」

お母さんは、お風呂上がりに一杯、発泡酒を飲んでいて、サチの方を赤い目で見てきました。

「隣の人って、どんな人?」

サチは、リビングのソファにちょこんと座って、膝を抱えました。

「優しそうな人よ? 小柄で、綺麗な白髪だったわー! 私も年を取ったら、あんな風になりたい!」

お母さんは、自分の白髪の目立ちはじめた髪を、染めるかどうか迷っているのでした。

「そうじゃなくって……」

「どうしたの? ご挨拶に行かなかったこと、後悔してるの?」

「ううん、違うけど……」

まさか、その優しそうな隣の人が、魔女だなんて言える訳がありません。

子供心にそう思って、サチはそのまま、お母さんの仕事の愚痴を、聞いているのでした。


次の日、学校に行って、一番にヒナコちゃんに挨拶をしました。

「おはよう!」

ところが、ヒナコちゃんもシンジくんも、クラスの子たちも、誰も挨拶してくれません。

それどころか、サチの行く先行く先の子供たちの輪が、すっと無くなってしまいます。

サチは訳が分からなくて、悲しくなりました。

そのうちに先生が入ってきて、授業が始まりましたが、いくら考えても、挨拶をしてくれない原因が、分かりませんでした。


「ねえ、ヒナコちゃん……」

掃除の時間が終わって、学校が引ける頃に、サチは勇気を出して、ヒナコちゃんを呼び止めようとしました。

けれど、ヒナコちゃんはぎろっとサチの方をにらんで、他の子と一緒に走って行ってしまいました。


サチは、転校二日目にして、独りぼっちになってしまいました。

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