転校生と魔女の家(8)

それから少し経った、ある日曜日のことです。

クラスの担任の先生が、サチの家に様子を見に来ました。

「元気か」とか「勉強はどう」とかじゃなく、ただ「絵が上手になったね」と言って、“魔女”の庭の植物を描いた、スケッチブックを眺めていました。

サチは、複雑な気持ちでした。


本当は、学校で友達を作りたいと思っていました。

友達と、一緒に勉強したいと思っていました。

グラウンドを駆け回ったり、ボールで遊んだり、遊具に登ったりして、遊びたかったのです。


でも、言えませんでした。

いえ、言わなかったのです。




何故なら、サチには“魔女”が、ついていてくれるからです。




実は一度だけ、ヒナコちゃんたちが、サチの家の前でこそこそしているのを、“魔女”の家の窓から見たことがありました。

相変わらず意地悪そうな目で、サチの家の門から、中を覗こうとしていました。

一緒にいた男の子も女の子も、にやにや笑っていました。

“魔女”が庭に出ると、ヒナコちゃんたちは、声を上げて逃げて行きました。

それを見て、サチは「学校には行かない」と思ったのです。

だってサチは、もう“魔女”のことが大好きでしたから。


転校してきて、最初の学期末が来ました。

こちらの冬はかなり寒くて、細身で小柄な“魔女”は、

「堪える季節です」

と、それでもにっこり笑いました。

白い、ひっつめた長い髪を、一本の三つ編みに結って、垂らしていることも多くなりました。

サチは、その三つ編みを担当することになりました。

毎朝、ご飯も食べずに“魔女”の家に行き、顔を洗って着替えてくるのを、ホットミルクを勝手に入れて、ダイニングで待つのです。

もう心得たもので、“魔女”もサチにだけ、秘密の鍵のありかを教えてくれています。

二人は、本当の仲良しさんになりました。


そんなある日のことです。

“魔女”の元に、一通の手紙が届きました。

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