サチとサマンサ。

斉木 緋冴。

転校生と魔女の家(1)

 日本列島の東と西の間、北と南の間に位置するこの街は、今日も何事もなく、平和です。

 サチは、ぼんやりと西の空を眺めていました。


 サチは、10歳の女の子です。

 ひょろっとしていて、サラサラのおかっぱで、笑うとえくぼが出来るのが、悩みの種です。

 余り気が強い方でなく、前の学校でもちょっとだけ、弱い立場の子でした。

 勉強は、算数と理科が苦手で、体育は大嫌いです。

 でも、国語の成績はクラスで一番だったので、それだけは自慢でした。


「よろしくお願いします!」

 さして興味もなさそうな、パラパラとした拍手の中、先生に示された席に着くと、隣に座っていた女の子が、

「私、ヒナコ! ねえねえ、転校生って、どんな感じ?」

と、声をかけてきました。

 サチは、

「よろしくね! 今は緊張してる」

と、答えました。

 すると、斜め右の後ろに座っていた男の子が、

「緊張してるって!」

と、意地悪そうに言いました。

「シンジ、いじめるんじゃないよ!」

 ヒナコちゃんが、ぺしっとシンジくんの頭を叩きました。

 そして、サチの方を振り向いて、

「ねえ、サチって呼んで良い?」

と、聞きました。

「うん、いいよ!」

 サチは嬉しくて、にっこり笑いました。


 サチの家は、大通りからちょっと入った、住宅街の中、路地の角にあります。

 別に路地は暗くないし、ちょっとした坂の上にあるので、見晴らしが良いところです。

 サチのお父さんとお母さんが、一生懸命働いて、やっと買ったマイホームでした。

 まだ引っ越してきたばかりなので、生け垣の他は何もありません。

 お母さんは休みの日に、サチとお花を植えようと、お花の苗をたくさん買ってきました。


 隣の家はと言うと、お花がいっぱいです。

 パンジーやアリッサム、高い生け垣にはトゲトゲのツルが巻いています。

 きっと、季節になったら、綺麗な薔薇が咲くのでしょう。

 サチの家と比べると、ちょっとだけ広いお庭には、赤い実のなる植物が、植わっています。


 まだサチは、そこに住んでる人に会ったことはありませんでした。

 お父さんとお母さんが挨拶に行った時に、

「とっても優しそうな人! お花の苗を頂いたのよ!」

と、お母さんが喜んでいたので、いい人だと良いなと思っていました。


「サチの家って、魔女の家の隣なんだ……」


 ヒナコちゃんが、サチの家に着くなり、呆然と口を開けました。

 一緒に帰って来ていた、同じクラスの子たちも、呆然としていました。

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