DISTOPIA EMPEROR―絶対王者は破滅を命ず―

馳月基矢

序:前奏

序:前奏_prelude

 運命というものがあるのなら、それは多数の枝を持つ大樹のような姿をしているに違いない。何かの本で、そんなふうに読んだ。




 絶望、に撃ち抜かれた。

 比喩なんかじゃなくて、ほんとに。

 絶望。


 凄まじいエネルギー量の思念が衝撃波になって、おれの体だろうが地面だろうが車だろうがビルだろうが、全部をぶち壊しながら突き抜けていった。痛いなんて感じたのは一瞬だけで、あとはただ真っ暗になった。


 で、おれも絶望した。一応、生きてここから出ようと足掻いてたんだけど、思い直したんだ。


 もうどーでもいいよね~、って。

 このままグダグダ生きるより、さっさと終わっちまうほうが面倒くさくなくていいんじゃないの、って。


「姉貴も、いねーんだし」


 おれはつぶやいた。つぶやくことができた。まだ体がここにあるんだなって気付いた。


 死にかけてんだけど、痛くはない。重くて、息ができなくて、ずぶずぶ沈んでいくみたいで。自分の中身がすっげー濁っていくのがわかる。ざらざら。どろどろ。

 この混濁に全部を呑み込まれたら、おれ、きっと、終わっちゃうんだな。


 崩れたコンクリートと傾いたアスファルトに挟まれて、半分以上ぶっつぶれた体を首から下にくっつけたおれは、どうにか動く眼球だけ上を向けて空を見た。赤いような黒いような、ひび割れた空だ。


 何でまだ続いてんだろうなって思った。


【終わっちまえよ】

 こんなしょうもない世界なんか。


【滅んじまえよ】

 遅かれ早かれ、長持ちしやしねぇんだ。


【今すぐ消えてなくなれ】

 もうさ、みんな死んじゃったし。


【バイバイ】

 おれもさっさと消えてなくなりたいんだよね。


 短くて、くだらなくて、振り回されてばっかで、どーしようもない人生だった。


 ほら、本で読んだとおりにさ、運命がデカい樹みたいなもんで枝分かれしてるってんなら、この一枝、枯らしてやるよ。もっとマシな枝、あるんだろ? そっちに栄養回してやるから。


 いるのかどうだかわかんない、どっか別の一枝に生きてるおれがさ、姉貴と一緒に幸せに生きてりゃいいね。あり得ねぇのかな。ま、どっちでもいっか。

 どうせ、今ここにいるおれ、もう死ぬからさ。


【何もかも道連れにしてやる。来いよ、全部】


 おれは命じる。

 ざらざらでどろどろの思念が、滝が落ちるような猛烈な音を立てて額に集まる。


 おれは目を閉じた。ひび割れた空が見えなくなった。自分の中で渦巻く真っ赤な熱だけが見えた。心臓の音がほんの少し聞こえた。


 額が熱い。おれは最期の呼吸をする。


【終われ】


 真っ赤なチカラが砕け散って、何もかもが消えた。

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