幕間:間奏
幕間:間奏_interlude
運命というものがあるのなら、それは多数の枝を持つ大樹のような姿をしているに違いない。何かの本で、そんなふうに読んだ。
でも、だったら何だっていうんだろう?
おれが今こうして生きている一枝のほかにも、いくらでも代わりがあるってのか? この一枝が失敗作だったら、さっさと枯れて淘汰されて、別の一枝の養分になっちまうほうがマシだって?
冗談じゃねぇよ。
この世界は中途半端だ。ユートピアでも桃源郷でもパラダイスでもエルドラドでもない。じゃあ価値がないのかっていったら、そんなわけねぇだろう。
壊すよりも守るほうが難しくて、滅ぼすことなんてきっと簡単なのに、創り出すことは決してできない。
だけど、おれは、難しくても不可能だとしても、あきらめたくない。
失いたくないものだらけだから。
だからさ、テメーがさ、あまりにも相容れない「敵」であることを痛感してさ。
ブチキレたんだよ。本当に、本気で、人を殺したいと思った。生まれて初めて、心の底から殺意一色に染まった。
その一言は、おれのなけなしの理性と情けを吹っ飛ばした。
【今さら何を抜かしてんだよ、テメーは!】
チカラの制御も吹っ飛んでいた。思念による怒号。おれ自身の脳ミソまでぶっ壊れそうなほどの大音量。
痛い。熱い。血管が破裂しそうだ。
だからどうした? やめるもんかよ。死んだってかまわねえ。
わからせてやる。おれがどんだけテメーを憎んでんのか、その身を以て思い知らせてやる。
【そのナイフ、拾え。できんだろ? 拾えよ。さあ!】
チカラある血の者を従わせることは、限界の突破を意味する。もしかしたら禁忌の違犯かもしれない。
だけど、生涯に一度きり。今だけでいい。
超えたい。
チカラがほしい。何もかも屈服させられるだけの膨大なチカラが。
雄叫びが聞こえる。おれの喉が吠えている。腹の底から噴き上がってくる気迫のすべてを、音ではない声に込めるために。
声よ、飛べ。
熱く尖った槍になって突き刺され。あいつの心臓をぶち抜いてやれ。
【ナイフを拾えッ!】
ぎしぎしと神経に
抵抗すんじゃねぇよ。さっさとあきらめろ、クズ。
震える刃がライトを浴びてチラチラと光る。殺傷能力は十分なはずだ。人間の肉体なんて
ほどくことのできない拳の内側で、爪の刺さった手のひらが痛い。吠え続ける喉が痛い。頭がはち切れそうに痛い。胸が、いろんな感情と記憶がごちゃ混ぜになって沸騰している胸が、痛くて痛くてたまらない。
おれは命じた。
【喉を突け。そのナイフで自分の喉を突いて、死ね】
ナイフはわなわな震え続ける。
足りない。あと少し、チカラが足りない。
おれはまたチカラを振り絞る。研ぎ澄ませた思念を、おれだけの特別な声に吹き込む。渾身の
【突け! そして……】
そして、何もかもが終わることを願った。呪いも憎しみも怒りも、すべてを懸けて、願った。
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