第7話 卵かけご飯なんて…認めるしかない
バイトや調べ物で図書館にこもると、帰りが遅くなる時がある。
それでも嘉穂が夕飯を抜くことはない。コンビニで何かを買って済ますことも少ない。ソルビトールやら酸化防止剤やらリン酸やらが入ったものを食べる気にならないのだ。
家に帰って適当にある野菜を隔日でお肉かお魚、たまに豆腐をスチームポットに入れて加熱。野菜とタンパクと、それから御釜のご飯。それで十分じゃないか。
そんなものだから、卵かけご飯なるものは味気がないと思っていた。タンパク質と炭水化物だけじゃないか。
何がTKGだ。OMGのパクリか。
神をなんだと思っているんだ。嘉穂は無神教だけれど。
しかし、疲労困憊して帰宅し、冷蔵庫に卵以外ほとんどストックの無かった日、その認識は不覚にも覆されてしまった。
ゼミ発表の前日、不注意にも見落とした参考文献のために、閉館時刻の夜10時まで図書館に詰め、へろへろに夜中に帰宅した。冷蔵庫はほぼ空っぽ。ご飯は炊けているが卵以外にタンパクが無い。
醤油は棚の上で静かに控えている。
もう寝たい。
悔しいが卵かけご飯以外の選択肢皆無である。
あぁっこんなこともう今日が最後だもん!そう思って、お風呂に先に入ってしまい、寝る準備万端で空腹の胃にほかほかご飯に卵を落としてかきこんだ。
のだが。
敵から塩を送られるごとく臓腑に染み渡るご飯のほかほかと卵のとろみと、そこに効かせた醤油の芳香な塩味。
やられた。
TKGにはOMG並みの神秘があった。
以降、卵かけご飯の魔力にはまり込んだ嘉穂なのだが、2回くらいプレーンな卵かけご飯を経験すると若干、別バージョンに手を出してみたくなる。
野菜欲しいよね。
とろみがあってもいいよね。
すこし香り高くてもいいよね。
絶妙なとろみとご飯のバランスはどれだろう…
と思考を重ねた結果、出来上がったのはバイトの閉店を任され帰宅した日、11時半。
お風呂から上がってパジャマに着替え、もはや寝るだけとなったこの身。必要なのは栄養素のみである。
ほかほかご飯を少し大きめの器に盛ると、いざ参らんと卵を冷蔵庫からおいでませ。
卵に黄身だけを落とし、そこに湯がいたオクラを刻んで紫蘇と生姜と共に乗せる。いやそれだけでは芳しさに欠ける。鰹節を贅沢に散らし、炒りごまをまぶして醤油をひと回し。
それを豪快に混ぜた。今日の疲れを忘れるために。そして一口。
美味しすぎ…。
新鮮な卵が手に入る日本ならでは。馬鹿にしていてごめんなさいTKG。感動的。偉い日本人。天の恵みの米のおかげ、OMGと並んでもいい。私無宗教だけど。
疲れた身体に栄養が染み渡り、明日も頑張れと言っている。
あれ、でもこれすでにTKGじゃない。
ま、いっか?日本でしかこんな美味しいもの食べれないのだし。
自家製大根と人参の酢漬けとトマトをお供に、トロとろの黄身が絡んだご飯をかきこむ。今日はお行儀悪いのもいいよね。お蕎麦だってすするんだし。
はー、卵イコールアミノ酸組成満点、やっぱり無添加お家ご飯が一番。
洗い物まで少なく、しっかり一時には就寝。明日はきちんとおかずも作ろう。
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