第11話 おせちは残る

 三が日も過ぎ、あっという間に日常だ。

 でも嘉穂が受けている大学の講義はまだまだ来週から。久しぶりの実家で、ここぞとばかりに母に料理を任されたけれど、広いキッチンはやっぱり楽しい。


 お正月のおせち料理、嘉穂の家はほぼ手作りだ。買うものといえば、蒲鉾と、栗きんとん、昆布巻き。場合によっては数の子。

 田作り、伊達巻、酢蓮、紅白なます、黒豆、お煮しめ、金柑、これらは毎年作る。市販のものより自分の馴染んだ味で作れるので、親戚が揃う時には良いのだ。


 とはいえ困ったことは毎年起こるものである。


 余る。


 特に余るのは大量に醤油漬けにする数の子と黒豆、そしてたくさん買い置きする蒲鉾。


 そして冷蔵庫を埋め尽くすのだ。場所がない。


『嘉穂、お母さん仕事終わらせちゃうから夕飯よろしく』


 四日から出勤の母からしっかりメールが入っていた。


 えぇー…。


 仕方ない。


 まだまだ冷え込むこの時期である。みんなでお鍋は決定なのだが、おつまみがあっても悪くないだろう。

 取り敢えず鍋の材料を切ってしまい、嘉穂は再度、冷蔵庫を開けた。


 お客さん用に大量に買ったレタスがひと玉、冷蔵庫を占めている。寒い時期にあまりレタス欲しくないなぁ。


 豪快に3、4枚、葉っぱをひっぺがし、洗ってみる。日にちを置いて随分しなしなになってしまった。

 ぶちぶちちぎって水を張った大きなボールに放り込んだ。寒中水泳。心頭滅却すればレタスもパリッとなる。


 余ってしまった数の子の醤油漬けは、まだ臭みも出ていない。キッチンバサミで適当に切り、サラダボウルを埋めていく。

 続きましては紅白蒲鉾。数の子と同じ大きさに包丁トントン。紅白が綺麗に混ざり合ってお花みたい。


 泳いで息を吹き返したレタスの水切りはしっかり。レタスばかりは水も滴るいいレタスというわけにいかないので。邪魔な水滴が無くなったらボウルにほい。蒲鉾もほい。混ぜ合わせたら見事に緑の葉っぱしげるお花畑である。


 さて、数の子のお味だけでも十分ですが。

 白ゴマに登場していただきます。


 フライパンで炒って香ばしく。ぱらりと花畑に散らしたら、酢と胡麻油を少々。

 香り高く彩り豊かな一品が出来上がりました。


 これだけでは野菜が少ないけれど、今日はお鍋でたっぷり野菜だしね。


 見事に変身した数の子に満足した嘉穂…であったがトースターの横が寂しいのに気が付いた。

 いつも食べる朝ご飯のパンがない。それもそのはず、ずっとお餅だったのだ。

 お餅ばかりでそろそろ朝ご飯にパン系統も食べたい。


 くるりと向きを変えれば、黒豆の壺。なんと素敵なジャポネーゼ、とか昔の日本の名作をもじりたい。

 小麦粉卵にベーキングパウダー、蒸しパンなんてすぐ出来る。黒豆入りのお正月蒸しパン、これで和洋折衷ハイカラさんご飯だ!


 家のオーブンは庫内も広い。もう一つ何か、一緒に焼けるかな。


 今年初めのお菓子は、どうやら家族へのお年賀ご挨拶になりそうだ。

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