第8話 冬は囲炉裏

 いつのまにかオータム・コートでは肌寒くなり、それに冬の薄手のコートに変えても耐えられなくなり、ついにはマフラーの出番となった。


 この間、学園祭が終わったと思えばもう冬だ。寒い。

 冬は暖房代にあまりかけたくない。部屋に帰ると嘉穂は部屋着の上にフリースを羽織り、モコモコの靴下を履く。


 どのみち寒い。


 そうなってくると、嘉穂の実家、そして嘉穂のアパートには囲炉裏が出てくる。


 囲炉裏ご飯ほど優秀なものはない。囲炉裏が登場すると、冷蔵庫には白菜と大根と人参とお葱と豆腐が常備される。きのこは気分に合わせて好みで。


 切った野菜はお皿ではなく全てタッパーへ、そして根菜と水を土鍋へ。

 キッチン鋏で実家から届いた昆布を切り、ぱちんぱちんと土鍋にはらり。


 そしてここから。寒い時には香味が有効。ニンニクと生姜をすりおろし、湯気の中へ。途端、台所に広がる旨味。


 さて。


 冷蔵庫のチルド室を開けて思案する。

 今日は豚肉と帆立と秋鮭とが鎮座している。


 ニンニクと生姜…。


 圧倒的な存在感で豚肉が主張する。

 しかたないなぁ…。


 もも肉切り落としのパックを取り出し、泡立つニンニク生姜湯へ。うむ。続けて白菜の芯とえのき茸を。うむ。さてそろそろ。


 コンロの火を止めて、一人用土鍋の両耳(に見える取っ手)を鍋つかみでくるんであげると、嘉穂は食卓で待つ囲炉裏へ向かった。


 こん。


 さて。囲炉裏の出番。ガスボンベセット。つまみを右に回すと、青い火が鍋の底に左右対称な円形の輪を作る。


 これが、卓上コンロの異名を持つ嘉穂の家のモダン囲炉裏である。蓋を開けて三つ葉を散らせばもう全て、火が通っておたまを待っている。

 暖房なしで十四度まで冷え込んだ部屋はだんだんと囲炉裏の炎と鍋から上がる湯気で暖められ、スープを口に含む嘉穂の体もニンニクと生姜でぽかぽかに。


 ふぁー、やっぱり日本の冬に囲炉裏は欠かせない。


 すっかり食べ尽くしたら、最後はカピカピご飯の救済、α化。胡麻と醤油を散らして頂きます。余熱でもったり度の増すおじやは炊飯器では味わえない。


 さーて明日の囲炉裏ご飯は何にしようかなぁ。


 まな板からタッパーへと移動した野菜たち。残りはそのまま蓋をして、冷蔵庫にお休み。明日のお弁当の出番を待っています。

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