第2話 チキンバゲット

「駅前にできたブーランジェリーのランチセット、すごく美味しそうなんだよー」

「え?今日行く?」


 そんな同級生の会話が聞こえてくる。嘉穂は二限の荷物を片付けて、早々と三限の教室へ向かった。三限の教室でお昼を食べていれば、大抵友人もやってくる。


 駅前のブーランジェリー、嘉穂もメニューが目に入って足を止めた。チキンと野菜のバゲットサンド。お腹も満たされそうだし、野菜たっぷりが嬉しい。


 ドリンクセットで千円。


 この国はどうかしている。


 嘉穂がサンドイッチランチにガッチリと掴まれた理由の二つ目が、手頃に作れる栄養価の高さだった。

 サンドイッチは具材だけでなくパンの種類を変えるだけで、軽く食べたい日からしっかり摂りたい日まで、難なく調整可能。しかも工夫次第で野菜タンパク質炭水化物を、簡単に満遍なく摂取できる。


 お腹を満たしたい日にはバゲットサンドにすることが多かった。噛みごたえがあり、お肉にもよく合うのだ。


 千円払う気は無いので、5限まである今日の朝はブーランジェリー嘉穂開業にした。


 バゲット三分の一にスライスを入れる。エリンギとインゲン、パプリカ、そして玉ねぎもスライス。まとめてトースターに放り込む。

 その間に鳥ササミをキッチンパサミで切りながら深皿に入れ、昨日の夜に残してしまった白ワインと塩を振ってレンジへ。スチームチキン完成。


 ぐいっと大きく開いたバゲットにチキンを乗せていく。

 折しもチーンと焼けた野菜。トースターで干からびず、エリンギから水滴が出るくらいのちょうど良さ。玉ねぎだけもう少し加熱。

 早々と火の通った野菜はトースターからレスキューし、そのままチキンの上へ鎮座してもらう。その上からバルサミコ酢を少々。ややバゲットに染み込むくらいが良い。


 さて、このままでは、小さめに切った野菜もチキンも食べている間に仲違いしてしまってなんだか寂しい気分になる。あと、駅前のカフェに負けた気もする。

 そこで活躍するのがチーズ。


 とろけるチーズをまだ熱い野菜の上へ、布団をかけるように乗せてやると、自然に溶けて密着。仲違い防止策。


 見事に四種の野菜、高タンパクのササミ肉にチーズ、そしてバゲット。駅前のブーランジェリーのメニュー観察結果と比べて、嘉穂のも遜色ない。

 しかし、カフェのようなドリンクを付けられないだけの付加価値が無ければブーランジェリーに負ける。


 嘉穂は、先日クッキーを焼くのに買った胡桃を一粒出し、まな板で微塵切りにした。軽くフライパンでローストし、バゲットのチーズに散らす。


 明らかに野菜は嘉穂の方が種類豊富だし、アクセントの胡桃が楽しいはず。チーズのおかげでボリュームも満足。放課後まで頑張れるし、ケーキを買って帰れるかも。


 嘉穂のモットー。作れそうなテイクアウトは買わない。代わりに作れない精巧な心癒されるスイーツか、友達とちょっと良いところに行くのに使う。


 教室でバゲットを頬張っていると、友人もやってきた。ササミの余りはお米お弁当の時、卵焼きで巻き込む予定。親子巻き。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る