第21話 豆腐、海の幸との出会い

 ようやく春めいて青空が冬から春のものになり、そろそろ杏も早咲きの桜も色付いてきたというのに、外の心地良い陽気が恨めしい。

 どこからか湧いて出た「コロナ」とかいうもののせいで、せっかく稼ぎ時な春休みに嘉穂のバイトは営業短縮でシフトは削られ、ならば図書館に勉強と思っても大学は入校禁止になり、迷惑な話だ。


 コロネなら大歓迎なのに。コロネであればパンデミック起こしていい。むしろ日本以外にもあのふかふかパンのコロネが広がるべきだと思う。


 特に出かけることもないと家に篭りがちになる。お昼ご飯もだらけてしまいそう。ただでさえ一人分だと、一品料理になりがちなのに。


 しかしそろそろお昼だ。やはり一品で済ませたい、と思いつつ嘉穂は冷蔵庫を開けた。


 昨日は運良く入ったバイトでクローズを担当したから夜が遅かった。スーパーの閉店が早くて買い物にも行けていなかったので、冷蔵庫の中で残り物が主張している。


 メバチマグロの切り落としをお刺身にしたののあまり三切れ、お味噌汁に入れたお豆腐の残り……


 一人、一品料理とはいえ、栄養は偏りたくない。お野菜、蛋白質、バランス良く。

 だが、適当過ぎに見えてしまうのもテンションが急降下する。ただでさえ用事がキャンセル続きでだらけてるのに。


 ——んー……お洒落なランチ……


 幸いパンもご飯もあるので炭水化物は作る必要がない。


 ——バランス……


 レタス、トマト、湯がいて保存しておいたブロッコリー……

 決まった。


 余り物入りのタッパー二つを両方ともひょいひょいと片手で鮮やかに取り出し、キッチンのステンレスに乗せる。野菜室からは既に細く小さくなったレタスの最後の数巻き、ミニトマト。


 カフェご飯に決まりです。


 嘉穂はキッチンバサミをラックから取りあげると、マグロの刺身の残りをチョキチョキ適当に切っていく。刺身の残りだけあって保存のため既に醤油と山葵でつけてあったので追加の味付けはいらない。そこに水を捨てた豆腐の残りをぽん。

 割り箸で豆腐を潰しながら、しかし潰し過ぎないよう気を付け、食感を残したままマグロと和えていく。


 ——蛋白質OK、つぎは食物繊維とビタミン!


 レタスを細かめにちぎり入れ、ミニトマトを半分にカット、茹でたブロッコリーもそれに合わせた大きさに房を分ける。

 食物繊維とビタミンC、リコピン、葉酸、ベーターカロチン追加追加!


 ざっくり混ぜると、レタスの薄緑、鮮やかな緑、マグロの紅にトマトの赤、そして豆腐の白が見事にカラフルに混ざり合う。


 しかしここで嘉穂のカフェメニューはフィニッシュしない。山葵醤油では終わらせぬ。


 やっぱり白ゴマが無いと!


 これで香りとプチプチした食感で楽しむのだ。黄金色……とまではいかぬがなんて素敵なアクセント。


 海のものと里のもののマリアージュ、栄養バランス満点、豆腐サラダ!


 パンをトーストして、バターを乗せる。勿論多すぎず。少しは油もとらないと。


 完成、コロナに見舞われた晴天の昼の癒し。


 窓の外では薄桃色の花弁が青空に眩しい。冷やした豆腐がマグロに抜群に絡むサラダを感動して味わいつつ、芳しいトーストを頬張る。


 ——あ、これ次は、バゲットをカリカリに焼いてカナッペにもしてみよう。


 ウィルスなどに負けるものか。豆腐の力で嘉穂は健康維持である。

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