第三十七話~魔物が蔓延る町6~

 あれから何回爆死しただろうか。その度に肉を食いたいというクラヌに幻滅しながらも、チャレンジし続けた私は、やっとのことで本を手に入れることができた。

 死なない体にマジ感謝。


 アンリにとても心配されたが、クラヌには笑われた。こいつ、マジでバカじゃないの。


 バカにしたの……私でした。


 それはそれとして、私がてにいれた本。どうやら日記らしい。定番な展開だな。ありきたりすぎる。

 でも、これで、一歩前進できるんだ。今はありがたく受け取っておこう。何がありがたいのか知らないけどな!


「小雪お姉ちゃん、それは日記なんですよね?」


「うん、そうだよ。多分日記だね」


「美味しい?」


「クラヌ、ちょっと黙ろうか」


「とりあえず、現状について何かわかるかもしれません。早速読んでみましょう」


「そうね、そうしましょう。クラヌにはこれをあげるから」


 私はクラヌに飴玉をあげると「わーい」と言って喜んで、すごく静かになった。

 よし、計画通り。


 静かになったクラヌを放っておいて、私は日記を開いた。





○月□日 天気:晴れ

 畜生、畜生畜生畜生。皆くそったれだ。俺が……俺たちが一体何をしたってんだ。ただこの部屋で仲睦まじく過ごしていただけじゃないか。

 なのに、なんであいつは殺されなければならない。普通の人間じゃないからか? あいつが亜人だからいけないっていうのか。

 呪ってやる、絶対にみんな呪い殺してやるっ!



○月□日 天気:晴れ

 俺はあいつに誓った。あいつらを全員呪い殺してやると。本当なら、今すぐにでもあいつらを殺しに行きたい。だけど俺だけの力じゃ無理なんだ。でも、時間がいくらかかっても成し遂げてやる。だから……俺を見守っていてくれ。



○月□日 天気:曇り

 俺はまず、あいつらを殺すために使えそうな魔法を探した。だけど、見つからなかった。

 既存の魔法をいくら探しても、できることなんてたかが知れている。

 このままじゃだめだ。お前を殺したやつらがのほほんと生きている。許せない、許せない、許せない。

 ないのなら仕方がない。俺はあいつらを殺すために新しい魔法を作ってやる。

 それにしても腹が減った。机の上に謎の実があったが、腐っていないようだ。

 これを今日の夜食にしよう。さて、もう少し頑張るか。



○月□日 天気:雨

 わっふー。今日は雨だー。チョーだるい。

 でも、部屋の中で実験するだけだから関係ないもんねっ! ニート最強!

 えーっと、昨日は何をしようとしていたんだっけ。

 あ、そうだ、魔法陣。なんかよくわからないけど、ふわふわとしてもわもわとする魔法になったらいいな。でもなーんにも思いつかない。

 こんな時はお外に出るのが一番だねっ!

 雨の中を猛ダッシュだ!



○月□日 天気:晴天

 ……昨日何やったか何も思い出せない。しかも前のページに書かれている日記は一体なんなのだ。俺に一体何があった。

 しかも作り途中だった魔法陣が書き換えられている。くそ、これじゃやり直しだ。



○月□日 天気:曇りのち晴れ

 えぇー、今日も雨が降るのかーっと思ったらお外が晴れた。この地下室、空気が汚い。じめっとする。このままじゃナメクジになっちゃうよ。

 だから今日は換気の魔法を作ろうと思うよ。

 そのために書いてあった魔法陣を書き換えたんだけど、あれれーおかしいなー。直したところが元に戻っている。一体誰がやったんだろう。

 こうなったら仕方がない。ガリガリ改造だ!

 ついでにおなかが痛いからトイレも作ろうっ!



○月□日 天気:わけわからない

 俺が俺じゃないような気がする。なんだろう。もうひとりの俺が何かをしているようだ。この魔法陣、すげーなおい。霧の魔法陣だ。最高だ。これで俺の目指すトイレが完成する。

 ……俺は復讐を誓ったのではなかったのか?

 あの木の実を食べてからおかしくなった。でも、これで、これでトイレが……あーーーーッ。


 日記はここで途切れていた。



 ……なんだこれ。なんなのこれ。だれか私に説明してっ!

 ぶっちゃけ意味がわからないけど、この日記の作者が霧の魔法陣を作ったのだけはわかった。しかも、これって元々トイレだったの? なのに死んだらゾンビ化するとか走ったら爆死するとか、いらないオプションがありすぎだぜぇ、こんちくしょう。


 んで、一つ気になることがあった。それは、日記の作者が食べた木の実だ。


 これ、ウマシカの実じゃねぇ? どことなくクラヌにそっくりな部分がある。

 バカが魔法作ると録でもないものができるな。


「小雪おねえちゃん、これですべてが分かりましたね!」


「え、これ読んでもなんにもわからなかったんだけど……」


「そんなことないですよ。この日記を書いた人が霧の原因、ならこいつをとっちめてあげれば解決じゃないですかっ!」


「そいつどこにいるの……」


「…………さぁ?」


 これ、何も分かっていないのと一緒だよね。

 はぁ、何回も爆死したのに、手がかりなしかー。いや、わかったことはあるよ。この霧の本来の役割がトイレだってことはわかったんだから。

 んで、今のニートリッヒの現状となんにも結びつかないのはなぜ?

 てか、この日記を書いた奴はどこにいる。


「お姉ちゃんっ!」


「ん? どうしたの、クラヌ」


「あれ…………」


 クラヌが指さした方を見ると、なんとバラバラにとん散らかった骨があるではあーりませんか。

 あの位置……爆死してるっ! ってことはあれか。この魔法陣を作ったやつは自分で作ったもので爆死したってか。

 なんかトイレが限界そうだったもんなー。


「あれ、いい出汁が取れそう」


「…………だめよ、そんなことしちゃ、絶対にダメだからね」


 この子は一体何を言っているんだ。

 にしても、なーんも収穫がなかったなー。

 この霧の魔法陣は、元々トイレで、バカが色々と弄ったせいで、爆死だったりゾンビ化だったりといらないオプションがついてしまった、わかったのはそれだけ。

 他に情報は……。


 ない頭で考えていると、あることを思い出した。

 そう、鑑定結果だ。碌でもない鑑定さんはなんて言っていた?

 魔法陣の権限を怪しげなお兄さんに取られてるっていってなかったか?


 本来この魔法陣はニートリッヒを覆うような力はない。だけど、この魔法陣の効力は絶大だ。霧の魔法のチカラで中と外を区切り、魔法陣を消すようなことをすれば、爆死する。霧の中で死ねばゾンビが大量生産できる。

 よくよく考えれば、この効果ってかなり強くねぇか。


 だって、霧の中に人を引きずり込んで兵力を増やし、ゾンビを送り続けることができるってことだよな。

 しかもトイレってことは、霧の外と中を遮断する方法もあったりするのかもしれない。


 だってトイレだし。ことをしている時に誰かが入ってきたら嫌じゃん。そこらへんはしっかりしているんだと思う。

 でも、この魔法陣を作ったやつは、ここまで大きな霧を発生させるほどの力がなかった。


 んで、今の現状は、怪しげなお兄さんというやつがこの魔法陣を使っているから、ニートリッヒが霧に覆われたり、ゾンビが大量発生したりしている。いや、きっとそれだけじゃない。他にも何かあるんだろう。


 それらを使って、怪しげなお兄さんが何をするつもりかなんてわからない。

 だけどこれだけは言える。

 霧の中はうまく使えば絶対に安全な場所だ。敵を中に入れないように注意すればいいんだから。私だってそうするさ。


 というわけで、怪しげなお兄さんというやつは、絶対に霧の中にいるっ!


「よし、ニートリッヒに起こったことについて、だんだん分かってきたぞ」


「さすがです、小雪お姉ちゃん!」


「へへ、そんなに褒めないでよ、照れるでしょ」


「原因はわかった。あとは黒幕を探すだけだ!」


「でも、黒幕ってどこにいるのでしょうか?」


 うん、アンリの言うとおり。そこが問題なんだよな。

 わかっているのは怪しげなお兄さんが魔法陣を使っていろいろとやっているってことぐらい。

 その怪しげなお兄さんの情報が全くないんだよな……。


「ねぇお姉ちゃん。困ってるの?」


「うん、この魔法陣はね、ニートリッヒを覆っている霧を発生させる魔法陣なんだ。そして、この中で死ぬとゾンビになっちゃうの。そんな危険な魔法陣で悪いことをしているお兄さんがいるらしいんだけど……それがどこにいるのかわからなくて……。クラヌは何か気がついたことはある?」


「んー怪しげなお兄さんが教会にいることぐらいしかわかんないっ!」


「ちょ、ま! なんで教会にいるってわかるの」


 もしかして、この子は重要なことを知っていたんじゃないのだろうか。だって、私たちが来る前からこの町で生き抜いて来たやつなんだから。

 きっと馬鹿になっても、そこらへんの記憶が残っているんだ。馬鹿になったから説明ができないだけなんだ。私、悪くない。


「えっとね、教会を見たときにね、ビビビッときたんだよ。きっといるよ!」


「え、あ、もしかして、直感?」


「うん、そうだよ」


 なんかあてにならなそうな情報だなー。まあでも、他にさがすところないし。教会に再チャレンジしますか。


 ……もしクラヌの直感が当たってたらどうしよう。ウマシカの実って、知能を著しく低くする代わりに、直感とかでいろいろわかるような実なんじゃないだろうか。

 もしそうなら、ウマシカの実ってかなり優秀?

 でも、バカにはなりたくない。だって怖いもん。


 まあいいや、今はクラヌの直感に頼ろう。

 よし、教会に行きますか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る