第三十三話~魔物が蔓延る町2~

 はあ、もう胃が痛くなってきた。子供たちに目玉を配るってそれ何?

 いやね、地域によっては食べるってことについては知っているよ。寒い地域なんかだと、動物の肉を生で食べたり、目玉をそのまま食べたりしているらしいからね。ほんとか嘘か知らないけど。

 だけど、町中で配るもんじゃねぇだろ。ここの教会碌でもないな。いや? 子供たちに栄養豊富な目玉を配っているのだ。どちらかと言えばいい場所なのだろうか。判断に困る。


「すごいのを配ってますね、小雪お姉ちゃん」


「あ、うん、そうだね」


 なんか目を輝かせて私に言ってくるアンリ。そりゃ目玉を配っている場所があれば興味を持つわな。

 だけど、あれって目を輝かせてみるものか?

 違う気がする。いやね、男の子だったらなんとなくわかるのよ。

 虫とか爬虫類とか好きだもんね。コーロギ系男子とか学校で流行ったぐらいだからね。

 ちなみに、帰り道にロギってコーロギを捕獲して、家で調理する人たちをコーロギ系男子と呼ぶらしい。

 佃煮がぐにょっとして気持ち悪いとか美味しいとか……。あれ、これ漫画の話だっけ。そんな気がする。

 まあ、そんなわけで、男子は虫大好き! 爬虫類大好き! なイメージがあるわけだけど、女の子には全くないな。

 どちらかというと、豚の頭を割って脳みそを食べたり、豚の睾丸やきんつるチンチンを食べて、うっまーとか言っちゃうイメージが……ってこれはマジで漫画の話やんけ。

 ゲテモノ系の食材が大好きな女の子の漫画の奴! そういえば、ロギるってこの漫画で初めて知った言葉だった。

 ……あれ、私はいったい何を考えていたんだっけ。最近思考がそれすぎだ。


 とりあえず、あの漫画の話は頭の片隅に置いておいて、今はあの目玉を配っている謎の教会について考えるのが重要だ。

 そもそも、あの目玉は何の目玉なんだよ。

 大きさは手でコロコロするのにちょうどいいぐらいの目玉。どう見たって人間のやつな気がする。

 あれか、私の脳みそが腐ってるからそんな考えに至るんだろうか、いや違う、絶対に違うんよ!


「小雪お姉ちゃん、私たちも貰いに行きましょう!」


「美味しいよ! お姉ちゃん!」


 幼女二人に、一緒にお菓子食べようみたいなこと言われて和む光景だけど、目玉ってだけで、テンション下がるわー。

 まあでも、アンリとクラヌがこう言ってくれているんだ。年長者である私が拒否するのはなんか違う気がする。違うよね?


 というわけで、私は謎の目玉をもらうために、教会の方に近づいたわけだが、そこで異変が起きた。


 突然聞こえた何かが割れるような音。いきなりのことだったので、びくぅっと体を震わせてしまった。恥ずかしい……。

 アンリとクラヌも聞こえたようで、目に涙を溜めている。今にも泣き出しそうだ。

 いったい何が……そう思った途端に周りに変化が訪れた。


 笑顔で目玉を配っている教会の人とその人に群がっている子供たちの肌が突然ただれ始める。

 そして目が赤く変色し、ぎらりと光った。

 あ~とかう~とかよくわかんないうめき声のようなものを漏らし、私たちを睨んできた。


 あの姿は間違いない。どっからどう見てもゾンビだ!


 え、ちょ、なんで! なんで突然ゾンビ化するわけ! 意味わかんないよ!


 頭がこんがらがって、わたわたしていたら、子供ゾンビの一人がクラヌに襲いかかった。

 やべ、助けなきゃ!


 咄嗟に使った魔法は、いつものあれ、拷問器具錬成だ。と言っても、何を出そうかちゃんと考えていなかったため、鉄の処女アイアンメイデンが出てしまった。きゃぴっとした、うざってぇデザインの鉄の処女アイアンメイデンが、くらぬを襲ったゾンビをぱくっと食べてしまう。


 いや、急所を外すように設置された針だらけの中に引きずり込まれて、閉じ込められたと言ったほうが正しいか? まあどっちでもいいや。


 ちょっとやばいものを出してしまったか? と思った矢先に、べきべきっと、聞こえちゃいけない音がなった。

 なんと、子供ゾンビが素手で鉄の処女アイアンメイデンをこじ開けたではあーりませんか。


「これ、まずくねぇ」


「あうううう、怖いよ」


「クラヌを怖がらせるなんて、なんて子供なのかしら。刺し殺さなきゃ」


 アンリさん。ヤンデレ設定が適当になってきてませんか? ってそうじゃなくて……。


「アンリ! あれに手を出しちゃダメ。さっきの見たでしょ。返り討ちにあうわよ」


「でも、クラヌのために、一刺ししておかないと……」


「もう! そんなのいいから、さっさと逃げる。クラヌも早く!」


「わふうううう、待ってよー」


「一刺し……したかった」


 え、そんなに残念そうな表情になっちゃうの? どんだけ人を刺したいんだよ。シリアルキラーかよ! いや、この場合サイコパスか? 遊びみたいな感覚で人を殺しちゃう精神異常なやつ。いや、違うか。まあ、相手が死人だったからなんとも言えねぇけどな!


 というわけで、私たちは逃げた。

 それはもう、全力で逃げまくった。だって怖かったんだもん!




   ◇ ◆ ◇ ◆




「ぜぇぜぇ、はぁはぁ……二人共、いる?」


「はい、いますよ。ところで、大丈夫ですか?」


「わっふぅ! 走るの楽しかったよ!」


 私たちは、アスリートもびっくりの綺麗なフォームで追いかけてくるゾンビたちから逃げまくっている途中で、ひっそりと建っている小屋を見つけた。

 人間、追いかけられたら建物にこもりたくなるのは本能的なことだよね?

 というわけで、私たちはその小屋に入った。

 中は埃っぽくて、机などは腐っていた。壁もボロボロで、もしかしたら押し入られるかもしれない! と思ったけど、案外そんなことはなく、ゾンビどもは、飲み会終了後の解散時みたいにバラバラに去っていった。


 ちなみに、私が地球にいたときはまだ未成年だったから飲み会になんて参加していないよ。未成年の飲酒は違法、犯罪だ!

 お酒は夫婦になってから! ってこれ、漫画のタイトルや~。やべ、著作権とか大丈夫だろうか。大丈夫だな。だって異世界だもん。

 心の中で呟くぐらい……いいよね!


「はぁ、なんとか逃げ切れた」


「そうですね。これで一刺しーー」


「行くな。やめろ。ゾンビが集まる」


「そ、そんな~」


 アンリさん。もうちょっと自重しようね。そんな、一刺し依存性みたいなこと言わないで。


「クラヌは大丈夫?」


「わっふ~、ここ臭い。お外出ていい?」


「だからやめろっつってんの。またゾンビがアスリート走りしながら追いかけてくんだろ!」


「きゃうん、お姉ちゃんが怒った……」


 いやね、怒ってないよ。でも、クラヌは瞳をうるうるさせて、チワワの如くこっちを見つめてくる。

 っく、こっちが悪いことしているみたいじゃないか。絶対に謝んないんだからね。私、悪くない。


 にしても、この小屋はいったいなんだろうか。ゾンビが近づかない、それだけで不思議がいっぱいだ。

 だってあいつらは教会の中を平気で歩くことができる奴らなんだからな。

 なのにこの小屋には入んない。



 ……匂いか?



 いやいやいや、そんなわけないか。

 私は改めて、この小屋の中を見渡した。腐った壁、腐った机、水瓶の中には腐った水。そして、モザイク必須な感じのビニール袋が……っておい。ここい世界だろう。なんでビニール袋が。そして、モザイク必須な感じは何! え、マジなんなの! 人の頭でも入ってんの!


 私は恐る恐るビニール袋の中を確認して、そっとその場を離れた。

 そういえば、前にアンリが物の召喚は比較的簡単だ的なことを言ってたなーと現実逃避する。

 だけど、私の脳裏にはあのビニール袋の中身が再生され続けて……。

 忘れようと思い、自分の頬を思いっきり殴った。


「こ、小雪お姉ちゃん!」


「お姉ちゃん!」


 アンリとクラヌが心配そうに近づいて来る。まあ、自分で自分を殴ったぐらいじゃどうにもなんないけどね。現実逃避ぐらいしかできないから。

 ああ、でも逃避できなかった。忘れられないあんな物……。

 私は、もう我慢できなくなって、その場で叫んだ。


「なんでよりにもよってBL本なんだよ! ビニール袋の中身もね、腐ってたよ。ああ腐ってたさ。ここにある物のほとんどが腐ってたけど、あれはねぇだろ! 隠すならもっとちゃんと隠せよ。よりにもよって、ハードな奴はねぇだろ、こんちくしょう!」


「「ひぃ」」


 うう、二人に怯えられる。すべてはあのビニール袋の中身がいけないんだ。

 私はやけになって、あのビニール袋を中身ごと蹴飛ばした。

 言葉されたビニール袋は、うまいぐわいに蹴っ飛ばせたのか、中を弧を描くように飛んでいき……。

 バキィっという、やばいと思わせる音と共に床をぶち抜いて落ちていった。

 っておい! 床をぶち抜いちゃうって、ここどんだけ腐ってんだよ。

 もうだめだこれ。

 手を額に当てて、天井に視線を移す。もう考えるのはやめよう。そうしよう。それがいい。

 そう思って、全てを諦めようとしていたら、クイッと服を引っ張られた。


「お姉ちゃん、アンリがすっごいの見つけたよ!」


 クラヌが無邪気な笑顔でそう言ってくれたのだが、言葉のほうが気になってそれどころじゃなくなった。

 え、すごいのって何。え、え、なんなの!

 もしかして……あのビニール袋の中よりすごいやつ? いーやー。もう勘弁して!


 っと思いながら、私はアンリの近くに向かった。

 すぅーっと、瞳から頬を汗が伝った気がする。うん、絶対に汗、汗なんなからな!


 

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