第二十一話~彷徨う死者5~

「ジャジャジャンジャ、ジャジャジャンジャン、ダラララララララ、ジャンッ!」


『ガウガァアアア、ウィーアーっ!』


「うぃ? うぃーあ~」


 ああ、なんかめんどくさいよ。この不思議な踊りって奴はいつになったら終わるんだ。

 まあ、ゾンビさんたちは楽しそうだからいいんだけど。


「じー」


「アンリ、そろそろ見るのやめてくれると嬉しんだけど……」


「嫌ですっ! 小雪お姉ちゃんの素晴らしいところは絶対に見逃せません」


「あんたは、子供の運動会を見に来た親かっ!」


 こう、自分の子供の活躍を一瞬でも逃すまいとする親のようだよ! てか、私は子供か!

 いや、ストーカーに狙われている被害者とも言えるかもしれない。


「さぁ、ラストスパート、いっくよ~」


『おぉぉぉぉぉぉぉっ!』


 踊りもラストに差し掛かったようで、皆がテンション高く、激しい踊りを見せつける。

 先ほどまでは、タップダンスだけだったのだか、今は激しい振り付けも追加されて、まるで有名なダンサーが踊っているように見えてきた。

 かなりかっこいいんだけど、素人の私には難しいから、そんな感じに筋肉が動いてくれないから!

 無理やり誘わないで! 私はもう踊りたくないのよ!


「せぇ~のっ!」


『フィニ~~~ッシュ!』


「いぇーい」


 こうなったらもうやけくそだ!

 私は、他のゾンビと一緒にはっちゃけた感じにジャンプした。

 すると、どこからともなく拍手が聞こえる。

 アンリが、感動した! とばかりに拍手してくれているのはわかるんだけど……他は誰?

 口笛が聞こえたな~って思うときだけ、拍手の音が極端に減るんだよね。


 キョロキョロとあたりを探してみると、お馬さんが口でパチパチ言っていましたとさ。


「てめぇ! やっぱり馬じゃねぇだろ! 馬のフリすんじゃねぇよ!」


「いや、私は馬ですから」


「しゃべんな馬鹿! もうやだ、この状況っ!」


「諦めたらそこで負けですよ!」


「馬のオメェに言われたかねぇよ!」


「あ、あの、小雪お姉ちゃん」


「アンリもあの馬に言ってやってよ、お前は馬だから喋るなって!」


 私、間違ってないよね。あいつが悪いんだよね。


「い、いえ、私からは、小雪お姉ちゃんがブヒブヒ言っているように見えるのですが……」


「まさかの私ぃ! 一体どういうこと!」


 私、あの作品みたいに、完全翻訳スキルなんて持ていないから、馬とか植物とかとの会話なんてできないよ。

 鑑定さ~んっ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【馬専用スキル:ボケ化】


 対象者ひとりをボケさせることができる、芸人スキル。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 な、なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!


 これ、絶対に私のせいじゃないじゃん。てかなによ、対象をひとりボケさせるって。

 この状況で、私というツッコミがいなくなったら、この場所はカオスな状況になるじゃねぇか!

 ふざけんな!

 というかさ、なんで馬とブヒブヒ喋るのがボケなんですか! もうちょっと他にやりようがあったでしょう!


 そうやって、馬に対して憤っていると、一人のゾンビが近づいてきた。

 死体が魔物化したはずのゾンビなのに、なんだか怖くない。どことなく優しげな表情をしているようだ。

 もしかして、一緒に踊ったから、仲間だと思ってくれているのかな?


「キミ! さっきのダンスは素晴らしいよ」


「は、はぁ……ありがとうございます?」


 なんか唐突に褒められた。いきなりそんなことを言われたから、ちょっとだけ戸惑ってしまう。

 確かに、一緒に楽しく踊らせていただきました。後半はかなりきつかったけどね! ほんと、人間の動きじゃなかった。

 いろいろとよじれて取れるかと思ったよ。


「私はこのゾンビを率いる、リーダーゾンビです。よかったら一緒にダンスしませんか?」


 もう一緒にしてるよね? これってあれか? 自己紹介とパーティー勧誘……いや、ダンスチームに勧誘が正しいか。

 アンリだって小さいし、頼れる仲間が増えるのは嬉しんだけど、よりにもよってゾンビ。

 だけど、この人? 達は結構いいゾンビっぽい。

 でもだめだ、だって私たちは傭兵ギルドの依頼で、ニートリッヒに向かうのだから。

 ここは丁重に断ろう。


「私は西条小雪、元勇者。今は、この子と一緒にニートリッヒに向かう途中なの。せっかくのお誘いは悪いんだけど……」


 私が自己紹介したとたん、ゾンビリーダーの表情がピキリと音を立てたかのように固まった。

 首をゆっくり仲間の方に向けて、何やらヒソヒソと話している様子。

 あれ、何か変なこといったかな?

 いや、言っていない気がするのだが……これは一体。

 馬は、相変わらずバカ面している。だけど、それが愛嬌ある姿だとも思えた。


 おや、ゾンビたちの話し合いが終わったようだ。

 さて、何を話していたのやら……。


「がうがぁ!」


「あべしっ!?」


 なんでぇぇぇぇぇぇっ! なんで急に殴ってくるのさ!?

 え、え、え? 何、どういうこと、殴られたところがめっちゃ痛いんですけどっ!

 しかも顔ですか! 顔を殴りましたよね!

 女の子の顔は大事なんだよ! 殴っちゃいけないんだよ! うう、殴られたところで傷一つつかないだろうし、傷つけられたとしても瞬時に回復しちゃうんだけどね! 死なない特典として!


「あ、アンタたち……何をやって…………」


 アンリの瞳からハイライトが消える。

 くふふと不気味に笑い、いつの間にか握っている包丁が、怖い。

 アンリがヤンデレ化した。


「キシャアアアアアアアアアアアア」


「それ、もう女の子があげる声じゃないっ! それ、なんて化物ですか!」


 まるで蛇の化物みたいな叫び声をあげて、ゾンビに襲いかかる。

 ヤンデレが化物に進化したっ!


 アンリはリーダーゾンビに包丁を刺した。メッタ刺しだっ!

 だけどあいつはなんともない模様。

 そりゃそうだよね! あいつ、もう死んでいるもん。


「っへ、そんなのきかねぇや。嬢ちゃん、勇者は危険なんだ。早く逃げたほうがいい」


「そ、そんなことっ! ありません! 小雪お姉ちゃんは健全な勇者なんです。他の勇者と一緒にするな!」


 なんだろう、まるで避難民に告げる指示? みたいなことをゾンビが言っている。

 あれか、私が敵みたいな認識なのか?

 だったらなんとなくわかるけど、アンリを逃がそうとするのはなんでかな?

 ゾンビが魔物だから、勇者という魔物の敵を危険視するのは納得できるよ?

 だけどアンリは人間。魔物じゃない。

 ゾンビがアンリを心配するっていうのは、こう……なんか違う気がする。


「いいかい、お嬢ちゃん。勇者は鬼畜でクズで愚か者だ。等しく滅ぼさなければならない。それはわかるね」


「わかりますとも!」


 分かるんかい! なんで話が噛み合ってんの!


「だったらなぜ! 勇者を滅ぼそうとしないのだ同士よ!」


「あなたは勘違いしているわよ、リーダーゾンビっ! 小雪お姉ちゃんは可愛らしくて、愛しくて、まるで一輪の花のような美しさを持っているわ。それに、他の勇者よりよっぽど勇者らしいわ! 助けてもらったときのあの背中は……ほっ」


 いや、なんでそこで顔を赤らめますか!

 いらぬ誤解を招くわ!


「ア、アンリ……ちょっと落ち着こうか」


「いいえ、小雪お姉ちゃん。落ち着いてなんていられませんわ! 真なる勇者である小雪お姉ちゃんが、他の俗物エセ勇者と同じ扱いを受けているのですよ! くふふ、この愚かなゾンビたちは私がしっかり教育して差し上げます故、ご安心くださいな」


「なんか安心できねぇ」


 この子、一体何をする気なの! 逆に気になるわ!

 ゾンビたちは、私にべったりなアンリを見て、何を思ったのだろうか。

 なんかこう、驚愕しているような……していないような……。


「あれは……洗脳されているに違いない。みんな! あの少女を助けるぞ!」


『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ、たちゅけるっ!』


 幼児化っ!

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