第七話~不安定な旅人2~

「んで、本当に何しに来たのさ。私はこれから寝るんだけど? 邪魔するだけだったら帰ってくれない」


「せっかく会いに来たのに、ひどいよ。もうちょっと遊ぼうよ、ね」


 確かに、久しぶりに会ったのに、これではい終わりっていうのも可愛そうかな。

 だったらあれを言ってみよう。一度言ってみたかったんだよね。

 あのロボットアニメのオープイングのフレーズをっ!


「シンっ! 私はあなたのことを一万と二千年前から愛してるわっ!」


「君と会うのは実に6兆年ぶりぐらいなんだけど。あれ、8兆年だったかな? ところで一万二千年前って何かな。なんか面白いことでもあった?」


 そっけなく返されるとなんだか悲しい気分になる。もうちょっとリアクションとってよっ!

 こいつに文句言っても仕方ないけどな。


 ところで、なんか聞き捨てならないことを言われたような気がする。


 私と会うのが実に6兆年ぶりだって?

 はっ、なにそれ、ふざけてんの。

 それが本当だったら、私はヨボヨボのおばあちゃんじゃない! いや、普通なら死んでいるか?

 はは、悲しいな。るーるーるー。


「んで、本当に6兆年ぶりぐらいなの?」


「うん、僕の記憶ではそうかな。最後に会ったのは君が暴走する前だったからね。暴走したときの君は、会いに行こうとしても下手すれば僕が殺されていたかもしれないし」


「……死ねないくせに」


 こいつ、何言っているんだろう。お前も世界樹の管理って役割を与えられているんだろ。だったら『時の牢獄』に囚われてるじゃん。絶対に死なないじゃん。うわ、やだー。


「それはお互い様というやつだよ。ただ、僕が会いに行っていたら、とってもめんどくさいことになっていたと思うよ」


「そりゃそうだろうけど」


 そっか、本当に6兆年ぐらいたってるんだ。もし、私が今地球に戻ったとしても、私の知っている地球はなくなっているかもしれない。

 時間の流れが世界ごとに異なっているから、大丈夫な可能性もあるけどね。そこらへんは世界樹のシステムによるものだから、よくわからないけど。


 ただ、すごく怖いなって感じた。私の帰る場所は地球だった。一時期は、すごく帰りたいと思いながら戦っていた。だけど、その帰るべき場所がなくなっているかも知れない。そう考えたら、やっぱり怖いが妥当な感情だと思う。


 ……やーめた。難しいことや、嫌なことを考えるのはやめよう。だって、どうすることもできないし、気にしたってしょうがない。


「シン、なんか面白い話をしてよ!」


「君は……唐突に無理難題を言ってこないでよ」


「でも、面白いネタを仕入れたから、私のところに来たんでしょ?」


「それは……そうだけど」


 シンはほっぺを膨らませて、唇を尖らせた。こう、拗ねた子供って感じがする。

 なんか可愛く見えてきた。だけどこいつはホモだ。騙されちゃいけない。

 それ言ってるの、私だけなんだけどねぇ!


「しょうがないな、小雪は。とっておきの話をしてあげるよ」


「よっ! 待ってました!」


「ふふふ、じゃあ始めるよ。これは、ついこの前の話になるんだけどーーーー」


 シンが語ってくれたのはとある町の話だった。

 その町の名前はニートリッヒ。魔族と勇者軍が戦争している、最前線に近い町だ。

 そんな危険地帯、普通なら人なんて住まないよね。私だってヤダもん。勇者が負けたらすぐにやられちゃうんだよ。

 きっと男は殺されて、女は犯されて、ゴブリンの苗床にされる未来しかないね。

 考えただけで吐き気がしてきた。

 んで、そのニートリッヒってところが、最近滅びたらしい。

 シンが言うにはーー


「魔族軍の少数精鋭隊による特攻だね。ほら、君がよくやってたじゃん。敵地の食料だけ攻撃して、更には食料の補給経路を完全に断たせて、飢えさせる作戦。あれと同じことを魔族がやったんだよ。すごいよね」


 ということだった。

 確かに、ニートリッヒは、最前線に一番近い町であり、勇者軍がより良い戦争を行うために必要な食料補給をするための拠点だった。

 まあ、一つじゃないんだけど、ニートリッヒはかなり大きいほうだね。

 何かに例えるなら……アメリカ? それともサウジアラビアだっけ? いや、ロシアか……。

 そんなことはどうでもいいけど、石油の生産量が一番多い国とかあったよね。あれに似ている。

 ニートリッヒは食料の生産量がエムリア王国の中で2位か3位ぐらいだった。その上、戦場に近いんだ。

 まあ、使うわな。食料の拠点として。


 そっか、あそこ滅びちゃったか~。あれ、勇者マジでヤバくねぇ。死ぬんじゃねぇ。てか、なんで私にそんな大事な情報が流れてこなかったんだろう。あれ、嫌われすぎたから

? うわぁ、悲しいな、べらんぼうめっ!

 もうどうでもいいや、あんな奴ら。お腹が減って飢えて死ね。

 ああ、なんでとか、どうしてとか言いながら喚く姿が目に浮かぶぜ。


 欲望にまみれた奴らが絶望する姿……いい気味だ。


「でもあれ? そんな大事な拠点なら、すぐに勇者が派遣されて、取り返したんじゃないの? 畑を焼かれて、井戸に糞を投げ込まれて、家畜を炭に変える事ぐらいはやられているかもしれないけど、拠点だけ取り戻せば、いいんじゃねぇ。時間さえかければ、元に戻るし」


「いや~、それがそうとも言ってられないんだよね。確かに、勇者が二人とお供が二人、計四人で奪還しに行ってたね」


「奪還作戦にその人数だけって……。命令を下した上官、バカじゃん。死んじゃうのかな?」


「うん、確かに死んでたね」


「まじか……。って、どっちが死んだの?」


「勇者意外全員っ!」


「ぶはぁ、命令下した上官は何で死んだのかな」


「たしか……オークに掘られてだったと思うよ。ショック死だね。

 ああ、あの光景を思い浮かべるだけで……うへぇ、うへへへへへぇ~~じゅるり」


「おーい、神様? 人に見せてはいけない何かが出ているよ」


「じゅるっ……、ついやってしまったよ。でも、へへ、あれはいい光景だった」


 シンは恍惚とした表情を浮かべながら、だらしなく口を開けて笑った。マジで気持ち悪い。吐き気がしてくる。

 でも、相手は神様だから、そんなことは言わないよ。小雪ちゃんマジ偉い!


「それはそうと、勇者のお供二人はどうして死んだの? 勇者なんて私以外はみんな弱っちいけど、相手だって少数なんでしょ? 逃げようと思えば逃げられたんじゃない?」


「それがどうも事情があるらしんだよね、詳しくはわからないけど。ただ、あの出来事は悲惨だったよ」


「ん? あの出来事? なんかあったの」


「あった、あった、すごい出来事があったんだ!」


 んで、シンがまた語りだした。

 ニートリッヒが魔族に占領されたあとのお話を。

 魔族たちは、かなりの甘ちゃんだったらしい。

 なにせ、誰ひとりとして殺さずに、捕虜としていたらしいから。

 魔族たちがニートリッヒの人達に武力で食料を前線に送らないようにした。

 だけど、やったのはそれだけだった。普通潰してしまったほうが楽なのに。


 しかも、魔族たちは、町の人間を守るようにして戦ったらしい。

 誰とって? 勇者だよっ!


 馬鹿な勇者二人は、町の被害関係なく、全力全開で魔族と戦った。

 そりゃ、ゲームならできるだろうけどさ。これは現実。そんなことしたら、周りの人間はどうなる? 巻き込まれて死ぬのが当たり前だよね。そりゃ必死で逃げるさ。

 最終的には、暴走する勇者を相手に、魔族と人間が手を取り合って、共に戦ったらしい。


 すげえ優秀だな、その魔族たち。ある意味でかっこいいよ。人間みたいに、私利私欲に溺れているわけでもなく、ただ、平和な世の中を作りたい、そのために共存したいんだという考えが伝わって来るかのようだ。


 いや、だってねぇ。占領した場所で、捕虜とした人間たちに温情を与えて、しかも危険から守るって、普通できないよ。

 だからこそ、一刻も早い終戦を目指して行動を起こしているって考えが伝わってくる。

 人間より魔族の方が優秀じゃねぇ。いっちょ人間を滅ぼしてやろうかぁ!


「小雪、なんだか悪いこと考えてるでしょう」


 すっげぇ悟ったような目で私を見てくる。心に刺さった感が半端ない。

 シンは、何かを思ったのか、うんうんと頷いたあと、とんでもないことを言いやがった。


「そうそう、勇者の二人なんだけどね、ニートリッヒを占領した魔族の一人を魔力暴走に追い込んで、町ごと爆破させたね。あれすごかったな~」


 ……………はぁ!

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