第十六話~不安定な旅人11~
っと、ツッコミを入れている場合じゃなかった。
「アンリ! 大丈夫!」
私は倒れたアンリに近づいて、回復スキルを使用した。
吹き飛ばされて、頭を打ったみたいだ。まだ気を失っている。
だけど、そこまで酷い怪我をしているわけではないようで、案外大丈夫そう。
これは、よかったって感じなのかな。
でも、万が一ってことがあるかもしれない。
個人的には頼りたくないんだけど……鑑定さん、おねしゃす!
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【アンリエッタ・フォン・エムリア】
種族:神の如き美しい人間(幼女)
性別:処女
【状態】
『恋する乙女』
『一途な心』
『病んでる心』
『気絶(一時効果)』
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なんか怖い状態異常が増えてるっ!
何、病んでる心って。恋に一途な心にヤンヤンした心が合わさって、ヤンデレになりましたっ! 的な何かですか!?
じゃなくて、今大事なのは、気絶の状態異常。しかも、一時効果って記載されているわけだから……大丈夫ってことだよね?
よかったあああああああああっ!
にしても、あいつは最悪だな、クソイケメン豚野郎! ぶっ殺してやる!
そう思って、アンリを優しく寝かせたあと、立ち上がって、金髪イケメンクソ野郎を探す。
すると、顔がぷくぅーっと腫れた状態で、隅っこに座りガクブルしていた。
あれ、一体何があったのかな?
首をかしげていると、うさ耳がやってくる。
「うわぁ、さっきのエンジェルスプラッシュ! すごかったよ~。ラブラビットパワーをビンビン感じちゃった。もう120パーセント超えててすっごーいと思ったんだよ? ねぇ、もしかして、君も魔女っ子戦士? ラビットキューンの新しい仲間かな? これから、愛と勇気のために、一緒に頑張ろうねっ!」
「おいまてコラ! 人を勝手にゲテモノの仲間にしてんじゃねぇ! 私は普通に女の子よ! 魔女っ子戦士でもなんでもないわ!」
もう嫌だ、こんな10歳児が着ちゃいそうな、可愛らしい魔法少女の衣装がかわいそうだよ!
盛り上がった筋肉と毛深いところとか、いろいろ隠せてませんからね?
そこんところ、分かってんだろうか?
わかってねぇから、平気でそんな格好ができるんだろう。
てか、エンジェルスプラッシュってなんですか! まったく記憶にないんですけど!
ドラゴンでクエストなRPGのばくれつけん的なアレですかね? わたしゃそんな技使えんわ!
だが、やっぱり、それよりも……。
これだけは言わせて欲しい。
「さっきからずっと思っているけど、あんたの声はなんなのさ! え、何? マジでその声なの? 声だけ聞くと10歳児の少女なのに、姿がもじゃもじゃマッチョって、金髪で野太い声のイケメンよりもギャップがはげしいわっ! 謝って! 某作品に登場する女声の男性声優キャラに謝ってよっ!」
かの有名な声優漫画の主人公も、男なのに可愛らしい女声っ! ってギャップがあったけどさ。これほどひどくないよ。むしろ、主人公くんは、女装したら女の子に見えるぐらいスレンダーで、童顔で可愛らしいからねっ!
中身は悪魔みたいに自己中心的っぽいところもあるけど、かっこいいんだよっ!
なのに…………なのにぃ!
この世界で現れたのは、うさ耳で、歴戦の戦士を彷彿とさせる肉体とごつい顔、ぱつんぱつんの魔女っ子っぽい服を着こなす、声が10歳児の少女みたいなおっさん。私の推定では37歳。
そんなお前に需要はねぇんだよっ! そんな格好やめちまえっ!
「うさ? そうなの? なんかごめんね(きゃぴ)」
「ぐはぁ……くそう。私の精神のステータスは表示できないほど低いんだから……もうやめて、お腹いっぱいなの!」
悪夢のような光景に、私は永遠に近い苦しみを感じた気がした。
胸がモヤモヤするというか、吐き気が止まらないというか……。
なにも出ないのに、げぇーとやっている気分になる。
この気持ち悪さと必死に闘っていると、ラビットキューンが、スカートをふわりとさせながら、金髪イケメンのクズ野郎に近づいた。
「さぁ、お仕置きの時間だうさ!」
「ひぃ、や、やめてくださいっ!」
「可愛らしい少女に酷いことをした罪を知るがいい! 愛と勇気でラブラビットパワー充電、150パーセントっ! ラビットキューンの魔法を受けてみよ ひっさ~つーー」
「た、頼む、待ってくれっ! 好みの少年がいただけなんた! 俺が同性愛者なのが悪いっていうのかよっ!」
「ラビットショット!」
「げへぇおーーーーーー」
あっれ~目の錯覚かな?
ショットって、射撃とかボールを打つこととか、そんな意味だよね。
あれ、全然違うよ! あれって瓦割りじゃん!
しかも魔法じゃねぇ! それ、なんて物理ですかぁ!
あの気持ち悪い魔女っ子のおっさん、ネタのオンパレードだ。ネタの宝箱や~。
これダメだ、料理に使わなきゃ、あのグルメリポーターさんに怒られちゃう。
反省、反省っと。
ラビットキューンの華麗なる必殺瓦割り(瓦の代わりにイケメンを使ってます)を決めたあと、足を掴んで、勢いよく振り上げた。
何をするの! と思ったけど、なんか普通に肩に担いだ。なんか、足が曲がっちゃいけない方向に曲がっている気がするんだけど……。
「悪党成敗! 私はこれの処理をしなきゃいけないから行くね。じゃあね、ラビット小雪!」
「私を仲間にしないでよ! ふざけんなおっさん!」
「おっさんじゃないもん、ラビットキューンだよ! とりあえず、頑張ってね。じゃ~ね~」
ラビットキューンなるおっさんは、風の如く去っていった。
あいつ、あのイケメンクズ野郎をどうするのだろうか。
だめだ、犯罪の臭いしかしない。だって、憲兵に渡すイメージができないし?
もう何も見なかったことにしよう。そうしなきゃ精神が持たない。
「うう、小雪お姉ちゃん……」
「アンリ! 目が覚めたの!」
「う、うん。一体何があった……あ、あのクズ野郎はどこに行きましたか! ぶっ飛ばします! 三枚におろしてやるんです。お姉ちゃんに手を出そうとしたあれを許せないです! くふ、くふふふふ、あいつ、どうしてやりましょうか!」
「大丈夫! 問題は全て解決したから! だから目に光を宿してよっ! 何回見ても、ハイライトのない目は怖いって!」
目が覚めてすぐにヤンが発生するのは、もしかしたらアンリらしいのかもしれない。
アンリを立たせて、怪我がないかを確認する。
どうやら本当になんともないようで、安心した。
お騒がせしちゃったし、周りの反応がどうなるか怖い。大丈夫かな?
とりあえず、周りを確認すると……。
「これ……一体どうなってんの?」
「ホ、ホラーなのです……」
周りの人たちは微動だにしない。まるで固まっているようだ。いや、ほんと、まるっきり動かない。時間が止まっているかのようだ。
【システムメッセージ:対象・西条小雪とアンリエッタが名称・傭兵ギルドを出ると、この場のシステムが再稼働されます】
おお、なんてご都合主義なんだ。
トラブルが起こっていろいろと面倒になるから、時間停止的なことをしてくれていたのかな? ついでに記憶改竄とかありそう。そうだったらかなり助かるよ。
あれ、でもなんでうさ耳のおっさんと金髪イケメンクズ野郎は止めてくれなかったの?
【システムメッセージ:だってめんどくさいじゃないですか。はぁ、あんた馬鹿ですねっ!】
世界樹のシステムにディスられた!
てか、お前、絶対に自我があるだろう! 複数ある世界の管理をしているんだから、ちゃんとしろよ!
【システムメッセージ!:そんなことありません。これだから学のない人は……】
なんか馬鹿って言われた、って何システムと話しているんだろう。
こんなところ、人に見られたら、ただぼーっとしている頭のおかしい人にしか見えないよね。普通に死にたくなってくる。
「……小雪お姉ちゃん」
「あ、アンリ、やだ! そんな目で見ないで!」
アンリの瞳は、なんだかかわいそうな人を見るよな目になっていた。ちょっと潤んでいるところが妙にガチっぽい。
私の頭がおかしいのなんて今更でしょうに!
もし、これが演技だったら……かなり怖い。
「くふ、計画通り(ニヤリ)」
「ーー怖っ!」
マジで、演技でした。この子、侮れない……。
◇ ◆ ◇ ◆
さて、あのあと、傭兵ギルドを後にした私たちは、普通に宿に戻った。
入った瞬間に、周りの人達からニヤニヤされていたのが、妙に謎だけど、まあいいや。
それで、食事をとって、すぐにアンリを休ませる。
今日はあんなことがあったからか、すぐにベッドに潜って寝てしまった。
今は小さな寝息が聞こえる。
それにしても、今日は色々とありすぎた。
マッチョな憲兵を装った変態、傭兵ギルドでのヘドロ、突然やってきた魔法少女のコスプレをしたおっさん。
こんだけ一気に来たらネタが尽きるだろうと…………今これを考える時間じゃない。一人でなにやってんだか……。
今考えるべきは、アンリと私のこと。私は元々壊れているわけだから、今更どうこうできないけれど、アンリは日を追うごとにヤンデレ化している気がする。
いつか後ろを刺されるかもしれない。いや、ないな。私にだけデレデレだし。
個人的にはもう少し旅の仲間がいてもいいかなって思うけど、アンリが新しい仲間を刺す可能性があるので怖い。
私たちって不安要素ありすぎだよね!
精神的に不安定な旅人ですか? って聞かれたら頷いちゃうよ。
……今更気にしても仕方がないのかな?
今後の課題が増えるばかりだよ。はぁ~。
明日は、ニートリッヒ方面の仕事でも探そう。
でも、ゾンビがいる可能性があるんだよな。
めんどくさいな、死にたいな~。
ああ、だんだんネガティブな思考になってきた。
もう寝よ。全て忘れてしまえ。という訳で、私もベッドに潜ることにした。
明日は明日の風が吹くって言うし、明日のことは明日考えよう。
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