第十八話~彷徨う死者2~
とりあえず、ニートリッヒの依頼を受けることにした。
国からの依頼ってことは、あの悪臭王の依頼ってわけで、それだけで受けたくなくなるんだけど、せっかくひげもじゃが選んでくれたわけだし、やらなきゃ悪いよね。
という訳で、ニートリッヒに向かって出発した私とアンリ。
目的地はエクリプセから二週間ほどいった場所だ。
前線からかなり離れているように見えるが、これはこれで仕方がない。
ニートリッヒは戦場に送る食料の生産地なわけで、それを場所ごと移動することは不可能。まぁ、滅んでいるんだけどね。
でも、空間移動系のスキルなんかを勇者が持っていたりしたら、あまり関係ないか。
だって、食料をわざわざ運ばなくても、手元に持ってこれるわけだからね。
私みたいに転移できる奴はいないだろうけど、空間を繋げて取り寄せるぐらいならできそう。
そう考えると、空間系の魔法って、怖い。
戦争で最も重要な兵站の考えが一気に崩壊しそう……。
もう勇者じゃないから関係ないけど。
「よし、そろそろ転移をーー」
「ダメですぅ! 今回は! 絶対に歩いていくんですから!」
「で、でも……ニートリッヒまで、何もないんだよ」
ほんと、傭兵ギルドでひげもじゃに聞いたときは卒倒しそうになった。
二週間の野宿生活。いやそこはいいんだけど、アンリと外でふたりっきり。しかも、アンリに夜の見張りをやらせるには、いささか不安が……。
こりゃあれか。私に仕事が終わるまで寝るなってか。無理だろう。
「大丈夫です! それに、小雪お姉ちゃんの素晴らしいスキルのおかげで、食料とかは、どうにかなりそうですし、この旅を楽しみましょうよ!」
「うぐぅ、口を滑らせてしまったのがいけなかった……」
アンリが言っている素晴らしいスキルというのは、『世界創造』と『生物創造』の二つだ。
鑑定さんにお願いするとこんな感じ。
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『世界創造』
自分だけの世界をつくることができる固有魔法。
ただし、その世界を創造した術者は、作った世界に行くことができない。
だけど、モノや作った世界に住まう生物などを取り出すことは可能。
『生物創造』
あらゆる生物を創造することができる。ただし、作った生物は一定時間が経過した後に死亡する。
術者と同じ世界に存在できる時間は、『世界創造』によって作られた世界に行くことで回復する事ができる。
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鑑定さんがふざけなかったので、ちょっと怖い。でも、真面目に仕事してくれるのはいいことだ。今後共、こんな感じになることを期待しよう。
んで、この二つのスキルなんだけど、かなり使えるスキルなんだよね。
ラノベとかにありそうな、アイテムボックス。あれに近いかもしれない。
私が好き勝手に作った世界に、食料などをぽいぽい入れていく。
世界なんて、すぐに埋まってしまうような場所じゃないから、無限に近い容量を収納可能。それだけじゃなく、生物創造を使えば、私の世界で生産も可能となるっ!
まさに万能スキル。
しまうだけが取り柄のアイテムボックスよりスゲェって思われるやつだよね。
しかも、創造した生物は、召喚できるから、戦闘要員としても使える。まさに完全無敵の魔法だね!
とりま、エクリプセで買ったものを世界にしまって、一番最初に創造した『触手ちゃん』に管理してもらうことにした。随時生物創造させて行く予定だ。
この使い方は、エクリプセで買い物中に鑑定さんにお願いして、自分のスキルの確認をしていた時に気がついたんだ。
だけど、うっかりアンリに言ってしまい……。
転移は使わせまいとだだこねるようになっちゃった。
まあ、これも旅の醍醐味だと思えばそれでいいんだけどね。
「ぴゅき!」
「あわわ、なんですかあれ!」
「ああ、スライムだね、こんなところにいるなんて」
超絶危険モンスター、スライム。誰が言ったか知らないが、世界最強でドラゴンすら食らうらしい。
その生態はかなり謎に包まれているとかいないとか。
青くてぷるんとした体をしているが、あれは水ではない。濃硫酸だっ!
下手すれば溶かされるぞって、図鑑に書いてあった。
どこの図鑑だって?
ギルドカードだよっ! あれ、マジスゲェ機能満載だよ。
「ス、スライムですか! あんなに可愛らしいのに世界最強なんて……信じられない!」
「アンリの言いたいこともわかるけど、これが現実なんだよ。あいつ、物理攻撃効かないし、触れたらこっちの体が溶かされるし……」
ライトノベルに登場するスライムのように、核みたいなのがあったら良かったんだけどね。
普通に進化して生まれた生物にそんなものあるわけないじゃん。
という訳で、このスライムに核なる弱点はありません。
一体どういう原理で存在しているんだろうって思ったことがあったから調べたけど、あれってアンデットと同じだったよ。
魔力によって体を構成する魔物。アンデットは魔力で死体を動かしている魔物。
あの二つが親戚って考えるとなんか違うような気がするけど……。
「アンリ、あれは炎で焼き尽くさないと倒せないよ、ここは私に任せーー」
「ここは私がやるですっ! はあああああああっ! ファイヤー」
「うぉ、何これ!」
アンリの周りに魔力が激しく迸る。
もしかして、アンリがあのスライムをっ!
そんなことを思ったことがありました。
アンリが放ったのは、ライターの火? って思えるほど小さかった。そういえば、この子の炎魔法は素人級だった。そりゃ当たり前か。
だったら、さっきの魔力はなんだったの!
スライムはアンリが放った火に当たったが、なんともないと言っているかのように、ぷるんとしていた。
「な、火に弱いはずなのにっ!」
「あんな火じゃ倒せる訳ないじゃんっ!」
この子は一体何を考えてそんな行動をっ!
なんて思って、意識をスライムから外したのが悪かった。
自前の弾力で、スライムが飛び跳ね、木にぶつかったと思ったら、その反動を利用して更に加速した。
私とアンリの周りを青い閃光が飛び交う。
飛び交ってんのスライムなんだけどっ!
っく、これだけ早いと対処が……。
スライムがは速すぎて、炎系の魔法を当てられそうにない。
物理で何とかなれば、化物じみたステータスでどうにかなるのに……クソ。
バキッと強烈な音が響く。青い閃光となったスライムは、木が折れるほどのスピードに達した。
てか、あれで跳弾なんて無理だよね! どういう原理になってるの!
驚いていたら、スライムは私ではなく、アンリに向かって飛びかかってきた!
「ぐぶぅ」
「あ、アンリっ!」
やばい! 顔がスライムに包まれた。
失敗した、失敗した、失敗した。
私は慌ててアンリに近づいた。こんなところでアンリを死なせてなるものかぁ!
必死にスライムを剥がそうと……。
ぷるんっ。
あれ? あっさり取れたんだけど?
「あ、小雪お姉ちゃん。このスライムさんすごいよ。私のお肌がぷるぷるにっ!」
「あ、本当だ、肌の艶が……って、なんでぇ! これはスライムだよね! そのスライムに包まれてなんで綺麗になってんの!」
いや、これはこれで良かったんだけど……。
このスライムが本当にあのスライムなのか、疑問に思えてくる。
「これ、どうやらパックスライムですね。激レアですっ!」
「パックスライム? なにそれ」
そんなスライム、私は知らないよ。
「このスライムを顔に乗せてあげると、お肌がぷるぷるになるんです。ついでに、古い細胞やらなんやらを丁寧にとってくれて……。女性に大人気のスライムなんですよ!」
「顔パックか! なんだそのスライム、生物としておかしすぎだろぉ! てか、それならさっき飛び跳ねていたのはなんだったの! 意味ないじゃん。青い閃光やべぇって思った私の気持ちに謝ってよ!」
なんか納得いかねぇ!
「こ、小雪お姉ちゃん……。スライムに謝れって言っても……その……」
「そして、哀れみの目で見られた!」
もうやだ……死にたい。死ねないけどね!
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