第17話 本陣へ
俺がやり手婆のように若い二人の世話を焼いていると、ほぼ同時に左右の戦いは終わっていた。
「済んだぞ」
「捉えた」
「え、マジか」
俺が自分で押し付けたオーダーも忘れて驚いていると、突然女騎士クララが悲痛な声を上げた。
「私の、私の大切な友人を捕らえたのか!?」
いや、そりゃ捉えるだろ?
てか、戦いが始まるのはお前だって見てたじゃないか。
「友を人質にして、私を脅そういうのか?」
おい、脅迫ってか? 人の良いマヒシャがそんな事をするか! と俺が突っ込む前にその大切な友人達から声があがった。
「大切とか言うなら盾しろ! このドM女!!」
「クララ、酷いわ。その台詞が言いたいだけやん!」
一瞬動きを止め声をなくすクララ。
しかし、それは反省の為ではなく、次の台詞の為の『間』、タメだった。
「我が友の為なら、この身など差し出そう。」
マヒシャを見つめ、プレートメイルの脇腹にある留め金を外すクララ。
「・・・だが、私の身体を奪えても、我が心までは奪えはしない!!」
台詞を言い放つと同時に、鎧を脱ぎ捨てるクララ。
そして、両手を広げマヒシャを真っ直ぐみる目はどう見ても、求愛を受けいれた雌にしかみえない。
この女騎士は下に鎖帷子とかは付けない派らしい。
白い肌着を自己主張の強い胸が押し上げているのが、くっきり見える。
「てめぇ! それなら、敵を征圧してからにしろ!!」
「その台詞、あの本のまんまやん! それ、負けな言われへんやつやん!!」
「あの本の事は言うな! 二人の秘密! 約束でしょ!」
クララが何か我に帰ってアシュリナを振り返って叫ぶ。
即座に俺はスリングショットで丸薬を打ち込む。
なんか、ツボだったようだが、俺は知らん。
「サトシさん!!」
「大丈夫だよ。ただの攻撃抑制剤だ」
顔色を変えたマヒシャを俺は宥める。
まったく、嫌だね恋に狂った男は。
どっちの味方なんだよ。
「マヒシャの気持ちは通じているみたいだぞ。女の子には優しくしろよ」
俺はマヒシャの肩から飛び降りる。そして、薬が効いてボーっとしている女騎士から帯剣を取り上げる。
重っ。
一応、武装解除はしないとな。
俺が振り返ると、遠征軍のヴァナラ戦士達がゾロゾロと戻ってきていた。
それは既に攻撃抑制剤の効果が切れた事と、ラグンの里のヴァナラ達が俺の忠告を聞いて遠征軍に攻撃をしなかった事を意味する。
攻撃抑制剤が効いてる最中でも、攻撃されたら即効果が切れて反撃するようになってしまうのだ。
もう、あの大軍に攻撃抑制剤は効かない。少なくとも20時間くらいは効果が出ないはずだ。
つまり、もう時間がない。早く決着を着けないと。
「この3人はどうなる?」
「・・・・・・」
「ま、言わなくてわかるか」
この3人に限らず、チエダイの連中はタダじゃ済まない。済むわけが無い。
もちろん、俺達が負けたら、逆にこっちがその運命になるだろう。俺は逃げ出す算段はしっかりしてるけどな。
「私はこの人を守ります」
マヒシャは静かだが迷いの無い口調だ。この場を梃子でも動きそうにない。
俺も、この女騎士を見捨てるのはどうかと思うんだよな。
折角、マヒシャを拒否しない女が見つかったんだ。
頭が豚でも良いって女。はっきり言って、奇跡だ。
このチャンスは逃せない。
「マヒシャ、その彼女を抱えて逃げろよ。お前とその女を追うヴァナラは居ない」
「ちょう待ってや! クララを何処に連れて行く気なん?」
「そうだ、俺達は無二の親友だぞ、俺達が縛り首になったら、クララだって自殺しかねない! ああ、そうとも! やつは情に厚い女だからな」
いやいや、ドM女だし大丈夫じゃないか?
マヒシャでも3人は連れていけないしな。
「いや、逃げる必要ない。我らが勝てばその女騎士の身柄は私がなんとかしよう」
「そうだ、サトシが将軍の病気を治せば、問題は無くなる」
カプルが歯を剥き出しにして、モンジュが片頬だけでマヒシャに笑いかける。
お前ら、俺の何をそんなに信用してるんだよ?
マヒシャの幸せも俺の治療魔法にかかっているという事か、、、
「おい、ついでに俺達の身柄も何とかしてくれよ」
「そうやで、もし二人が結婚にでもなったら、友人席が0やったら寂しいで!」
「気が早いんだよ!マヒシャと女騎士が結婚する事になったら、お前らの安全は俺から頼んでやるよ」
俺はそう言って、マヒシャを見た。
無理するな とは言えない。此処はどう見ても、マヒシャが無理する所だ。
「あとは若い二人で仲良くやってくれ。俺達は先に進むよ」
「はい、サトシさん。ありがとうございました」
「何が?」
俺はマヒシャに礼を言われるような事してないぞ。
マヒシャはただ、俺に手を合わせて拝む。
だから、俺は神様じゃない。
まだ、マヒシャの願いは叶っていないしな。
俺は、マヒシャに背を向けて歩きだした。
「おし、行こう」
でも、今更だしな。行くしかない。
もう時間が無い。
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