第23話 理不尽な異世界


「あれ? それでオオヌキさんは何処ですか? モンジュ王子を待たせているのですが」

 課長に言われて思い出した。

 俺、オオヌキさんを呼びに来たんだっけ。


「あの、、、ここです」

 小さく細い声が俺達から少し離れた場所から聞こえて来た。

 ただ、そこは森の入り口で潅木が茂っているだけだ。


「えいっ!」

 その潅木の一部が掛け声と共に瞬時に人間へと変わる。

 ただし、全身をふわふわの毛皮で覆われているが。

「恥ずかしいから、木になってました」


「ごめんね。俺のせいで迷惑掛けてすいません」


「え、全然だよ」

 俺の言葉に両手を振って気にしていない事をアピールしてくれる。

 異世界に来て少し獣風に形態変化してしまったオオヌキさんだ。

 元々、小柄でふんわりした感じの女性だが、異世界にくると丸い頭、丸い耳、太くてフワフワの尻尾と、もふもふ感が強くなった人である。

 俺達7人の中で一番多彩な技を持っているが、性格が優しすぎるので攻撃面は期待されていない。彼女はチームを補佐する支援がお仕事だ。  


「それでは、モンジュ王子の下に戻りましょう」

 課長が、戦闘が起きないように監視していた日本人チームへと声をかける。

「もう、戦闘は起きないでしょう。各部族の族長達もこの場にいますし」

 つまり、この場に俺達が居る意味は無い。

 移動しようという事だ。


「待って、、、」


「どうしたの、カノンちゃん?」


「動けないの、なんとかして、、、」

 

 涙目で頬を赤らめる美女というか、美少年が俺を見つめている。

 え?

 何、俺? 

 もしかして回復役の出番なのか?

 駆け寄った俺は事態を悟った。

 カノンちゃんが涙目の訳を。


「ああっと、大丈夫だよ。これはただの生理現象、」

「言わないで!」


 少し腰を引いたカノンちゃん。

 今、彼女の身体は男性となっている。当然、異世界に来てからの変化だ。

 だから、これは初めての経験で焦っているんだろう。

 今、小人化してる俺と、美少年になっている彼女。

 丁度俺の顔の辺りに彼女の腰が来る。

 ま、興奮した男性の腰がね。


「えとね、数学の公式とか、豆腐の作り方とか、関係の無い事を考えるといいかもね」


「・・・・・・」


「そんなに焦らなくてもいいから、すぐ治まるよ」


「ダメだよ。全然治らないよ。痛いの。魔法使ってよ」


 勃起を鎮める回復魔法など無い!

 大体、それは回復じゃない。

 もしかしたら、逆の魔法ならあるかもしれないけどな。


「あのね、じゃ、我慢して歩こう。此処を離れた方がいいよ」

 俺はカノンちゃんに手を差し伸べる。

 そりゃ、周りでレスリングをしてれば男性化したカノンちゃんの血が沸騰し続けても仕方が無い。


「あ~。そういうこと? よかったら私が抜いてあげよっか?」

 相方のアキラさんが冗談でカノンちゃんを励ます。

 見た目だけなら、美少年が美女に誘われる羨ましい図だが、中の人のセクシャルが複雑すぎる。

 そして、カノンちゃんにはジョークが通じなかった。

 位置的に後ろにいるアキラさんを睨み付けようと、カノンちゃんは身体を捻った。必然的に俺の顔面を彼女の棍棒が襲う事になった。


「ああっ!」

「ごめ、反射的に」


 美少女の陰茎を握り締める俺。

 って、何言ってるんだ?

 もう、自分でもわからない。異世界ってとんでもない事が起こるね。

 俺は怒られないように、握り締めたモノをゆっくりと離す。


「――!!」

 身体をびくりとさせ、動きを止めるカノンちゃん。


「・・・・・・」

 さすがに何も言えない俺。

 その俺を涙目から、怒りの目に代わったカノンちゃん見下ろす。

 それは比喩ではなく、元々の身長差がさらに広がっているからだ。

 カノンちゃんが怒りでさらに形態変化を起こしたのだ。


「うわ、大魔神やで」

「おお凄いですね。今回は炎を纏う巨漢、まるで不動明王のようです」


 タロウさん、課長、呑気な事を言ってないで助けてください。

 俺は、ビビッて動けない。

 チエダイの奴らとは違う。

 本気のカノンちゃんの一撃を受けたら即死確定だぞ。



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