第7話 モンジュ
「それでさ、マヒシャはこれからどうするの?」
俺が彼にこう尋ねたのは、彼の事を課長に頼んでみようかと思ったからだ。ただ、異世界転移はかなりコストがかかるらしい。
その事情を込みで彼に話してみた。
マヒシャに異世界に行きたいのか? と
「行きたいです。私と同じ人間が居る世界に。」
「わかった。課長に頼んでみるよ」
正直、俺の頼みなんて当てにならないんだけど、マヒシャにとってそれが一番良い気もする。
確か、重量より体積が重要らしいけど、マヒシャはどっちもデカイから大変だろうな。一応、そのへんも説明しておこう。
「それならさ、うちの森においでよ。お父様に頼んでみる。マヒシャは力持ちだし優しいから、すぐ馴染むよ!これからもワリンギルの実を採って欲しいもん」
さらりと本音を混ぜるリータ。だけど、それは有り難い申し出だ。
俺の案は、不確定すぎるからな。俺、研修中の新入社員だし。
俺達がリータの案内でラグンの森に向かっていると、途中で彼女を探している猿人達が現われた。
彼らは俺達の頭上の枝をゆすりながら大声を出す。
「姫様! モンジュ様が来た!」
「すぐ来い、来い!」
「早く! もう待ってる!!」
俺はその時、リータが俺達に付き合って地面を歩いていた事と彼女が姫様だった事を知った。
「ゴメン、私行かなきゃ。 えっと、どうしよ?」
「俺が案内する。籠も置いていけ」
一匹のヴァナラがリータに声をかける。
「ありがとうカプル!」
言うが早いかリータは樹上に駆け上がって行く。
「じゃ、あとで!!」
「モンジュさんはかなり重要人物らしいな」
そして、リータが好意を持っている人物だろう。名前を聞いた途端、彼女のワクワク感が伝わってきていた。
そして、入れ替わりに残ったカプルという猿人がするすると樹上から降りてきた。
「俺はカプル。リータの友達。お前達リータの友達。だから俺達は友達だ。歓迎するぞ」
彼は好奇心満ちた目で俺達を見ていた。
やはり、小人とオークの客は珍しいらしい。
俺達は自己紹介して、頭を下げた。奇異を見ても歓迎してくれるのは有り難い。考えたら、マヒシャだけじゃなく俺だって怪しい存在だった。
カプルは灰色の毛並みをした猿人で顔つきはリータと比べるとかなり猿よりだ。そして、体付きは俺よりも大きいと思うが背を丸め足を屈める姿勢が基本なのでよくわからない。そして、サルっぽく手が長い。彼は人懐こく、ラグンの集落に向かいながら色々教えてくれた。
リータを喜ばせた訪問者の名はモンジュ。
このラグンの森からヴァナラ族を統べるオンコット将軍に嫁に行った娘の子だ。その娘はこのラグンの森の王の妹である。
つまり、リータの従兄弟に当たる猿人であり、許婚だった。
「なるほど、それで急いで呼びに来たんだ。リータが喜ぶもんな」
「いや、姫喜ばない」
「なんでよ?」
「モンジュ様、死ぬ。その前に家族に会いに来た」
「なんでよ! 病気か? 」
あ! それで俺の薬の出番か?!
「病気違う。首刎ねられる」
「ええ?!」
「はぁ?! どういう事だ?」
「・・・・・・なんでだ? たしか、ハンイある」
カプルは自分の言葉の意味がわかっていないっぽい。
「意味がわからん。これから裁判か?リータが悲しむなぁ」
「何とかならないでしょうか? あの優しい子が泣くのは見たくないです」
「それなら、行くのやめるか?」
「ん、なんで?」
「王子、首切り役人連れて来てる。対面が終わったらすぐ死ぬ」
「なんと!!」
カプルの言葉にマヒシャは大声を出した。思わず俺がマヒシャの目を見るとその目は熱く燃えている。
「助けましょう! 」
「うん?」
マヒシャ君、お前、事情がよくわからないのに。
「リータが悲しみます! サトシさんの助けを助けを必要としています!」
ええ~そうかな? 俺何にもできないぞ。
俺の心中には全く気付かずマヒシャは熱血している。
「カプルさん急ごう!森に案内してください!」
「まー待て。事情くらい聞こうよ」
「理由? 何も無い。悪い事などする人ではない。だが、オンコット将軍の命令は絶対だ。そろそろ死ぬ頃だ」
うん? どういう事なんだ? 分かるのは迷っている時間が無い事くらいだ。
「急ぎましょう!! サトシさんが異世界に来た目的そのものですよ!」
もしかして、さっきの俺の台詞かな?
マヒシャ君、それは俺の見栄ですよ。全然、本心じゃないんです。
でも、マヒシャはそんな事言える熱量じゃない。熱すぎる大男はちょっと怖い。
だが、急ぐとなると樹上を走るしかないらしい。俺はなんとかなるが、マヒシャの巨体では無理だ。
そこで俺は先に行く事にした。
マヒシャには後から来てもらう。彼の鼻は鋭敏な上、彼らの村の位置を大体把握しているらしい。単身でも迷う事は無さそうだ。
ぶっちゃけ、マヒシャが一緒だと冷静な行動ができない。だから、別行動はありがたかった。俺は必死にカプルを追った。
強化された俺の身体能力でも森で本気のヴァナラ族を追うのは全力を出す必要があった。
リータの集落を何故『森』と呼ぶのか、それは行くと分かった。
かれらは住処を シイバ という樹の上に作る。彼らの住処はシイバの森という意味なのだ。
その樹はまっすぐ天に伸びる大きな樹だった。
種とし大きくなる樹らしい。デカイのは高さ60m 直径2m以上 特に大きなものは直径6mにもなる。
根から枝までが最低でも5mはあり幹の手がかりは少ない。が、もちろん猿人達には何の問題も無い。むしろ外敵を防ぐ意味で彼らには理想的な住処だ。
そして、シイバの樹の間にロープを結んでいる。猿人たちには、それだけで十分通行できる。それが集まっているのがリータの森。ラグンだ。
本気で頑張った結果、なんとかリータの森、ラグンの集落に辿り着いた。
そこには特大の樹の上に立つ大きな建造物があり、舞台のような広い平面のスペースが作られている。
其の場に、一人の猿人を中心に人の輪ができている。
茶褐色の全身の毛並みを持つ偉丈夫で、頭部から背中にかけて白く長い毛が生えており、白い たてがみ となっている。美しい猿人。モンジュである。
間に合った。まだ死んでいない。
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