第8話 チエダイの騎士団
「待てサトシ。お前が飛び込んでも助からない。お前も死ぬ」
カプルの冷静な言葉に俺は動きを止めた。
確かに、俺はうかつにもモンジュの居る場所に突っ込もうとしていた。
「付いて来い。樹頂部の裏から行けば誰にも気付かれないで近づける」
カプルは音も無く枝を飛びロープに飛びついた。そのままスルスルと樹の間を渡っていく。
俺はその後を追いながら、今の自分のカードを確認する。
うん、何も無い。
採取道具と採取した薬種だけだ。一応武器になりそうな私物さえ宿舎に置いてきている。
研修1~2週目に覚えた魔法だけが頼りだけど、俺のは戦闘向きじゃない。
と、悩んでいるうちにモンジュたちの上方の枝に移動できた。
「嫌だ!嫌だ!嫌だよう!」
下では泣き叫ぶリータがモンジュに取り縋って泣いている
「だって、モンジュ何も悪い事してないよ!!」
「うむ、天地にかけて悪事など働いてはいない」
モンジュはリータの頭を優しく撫でながら諭す。
「だが、私は叛意有りと讒言されたのだ。私は父に一命をもって責任を取る事を願いでた。私一人の命で皆は助かる」
「嫌だ!嫌だよう!!私達だって何もしていないのに」
「オズボーンはこのラグンの里全ての人を狙っていたのだ。私はこの里の皆を奴隷にしたくない」
ん? 奴隷って何だ? なんか話がおかしいぞ。
俺は樹の上でそっとカプルに尋ねた。
「なあ、モンジュはなんで死刑になるんだ?」
カプルはそんな事も知らないのかという呆れた顔をこちらにむける。
「それは、子供の木の実まで取り上げるチエダイの奴らを懲らしめたからだ。やつら酒造りの為にみなの食べ物を独り占めしてたからな」
「じゃ、悪い奴をやっつけた良い王子じゃないのか?」
「そうだ。今フンヌの森では誰もがお腹を空かしてガリガリに痩せている。本当なら今の季節一番豊かな森なのにな」
俺はますますモンジュが殺される意味が分からない。カプルはそれを悟ったのかさらに教えてくれた。
「お酒はフンヌ達が飲む為に造ってない。お金に換えてチエダイから薬を買う為だ。その薬がとても高い。でもオンコット将軍はその薬が欲しい」
「よし、解決見えた!俺がオンコットさんの薬を作る、それで問題解決だ!」
「本当か、カプル嬉しい。最近では奴隷にされて金を掘らされている奴まで増えている。皆困ってモンジュさんに頼っていた」
「・・・・・・お前ら、そんな大事な王子を見捨てるなよ」
「見捨てたくはない、けど、オンコット将軍の言葉は絶対。これヴァナラの掟」
「でも、悪いのはチエダイなんだろ?」
「そう。オンコット将軍は強くて優しい人。でも、変わった」
「んん? ひょっとしてオンコットさんて病気で寝込んでるとかじゃないのか?」
「身体元気。なのに薬欲しがる。ご飯食べないで薬。今はガリガリ」
あれ、それじゃ、その薬はまさか。
「あのさ、そのチエダイってヴァナラ族じゃないのか? どんな奴だ?」
「やれやれ、サトシはそんな事も知らないのか?」
カプルはため息をつきながら、下を指差した。
「ちょうど、下に出てきた。あいつらだ」
「おうおう、何時まで待たせるんだよ! なあ、バイン」
「へい。バログの兄貴の言う通りでさ。猿どもいい加減しろ!」
大声でヴァナラ族を威嚇する奴ら。
それは、チンピラ臭い人間だった。
しかも、長い耳。長い鼻。すらりとした手足も持った人。
課長と、つまり異世界人とよく似た風貌をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます