第9話 反抗
無礼な人間達にラグンの森の猿人達は牙を剥いて敵意を表すがチエダイたちは意に介さない。
「早く処刑しろや、コラァ!」
「お前ら将軍様の命令だぞ! 俺達に手を出したら処刑だからな!」
下に集まっているヴァナラ族達も怯まない。
「悪いのお前ら!」
「そうだ、お前らが食べ物奪った!!」
「仲間を奴隷にしてる!」
「モンジュ良いやつ。お前達悪者!!」
どうも、カプルと違って他の猿人達は熱い漢達のようだ。
「落ち着け皆。此処で奴らに手を出せば、ラグンの里の反乱にされる」
モンジュは周囲を落ち着かせようと声をかける。
「その通りだ猿共!立場をわきまえろ。俺達は人間の帝国からお前達を守ってやっているチエダイの騎士団だぞ!もっと敬え!!」
「兄貴の言う通りだ。俺達は悪の帝国をやっつけたろうが!!」
チンピラの異世界人二人は、なにか恩を売り始めた。
俺は枝の上でカプルに尋ねた。
「悪の帝国ってなんだ? こいつらって騎士団なの?」
今度はため息に加えて首を振る所作まで加えるカプル。
「お前はホントに何も知らない。悪の帝国はゴカの町の事だ。チエダイはそう呼ぶ」
「ゴカって川下にある大きな町だよな? 其処の人間が悪さをしてたのか?」
「ふー。お前は子供だな、サトシ。人間には悪い人間も良い人間もいる。ヴァナラだって同じ。当たり前だ」
ぐ、そりゃそうだけど、この世界の事情とか知るか! ってそれは今はいいか。
「それで、ゴカの人間達がお前達を襲ったりはしないんだな?」
「当たり前だ。我らは昔から共存している。ただ、金堀の人間達がフンヌの山に入ってきて山を荒らしてる事はあった」
「山を荒らす?乱暴とか?」
「森の樹を切り倒して、川の水を汚した。 それを追い払ったのがチエダイの奴らだ。奴らも金は取るが山を荒らさないのは本当だ」
んん? じゃ金堀たちが悪の帝国?
「で、その金はどうしたんだ? オンコットさんの物になったの?」
「いや、ヴァナラは金要らない。 金はゴカからチエダイに移った」
「それで、済んだ? もしかしたらゴカと戦いにならなかったか?」
「よく分かったな。サトシの事馬鹿だと思ってたぞ」
カプルの奴はガチで目を丸くして驚いている。
舐めんな! と思ったが、俺は温厚な日本人。そんな突っ込みはしない。
「チエダイの奴ら金堀を奴隷にして働かせていた。だから、ゴカから大軍が来て大変だった」
「それじゃ、チエダイと地元住民との戦いだよな。ヴァナラ関係ないよな?」
「いや、その頃から将軍がおかしくなった。俺達金要らないのに、戦いに駆り出された。沢山、仲間死んだ」
「止める人はいなかったのか? そんなのおかしいだろ」
「最初は沢山いた。でも、今はモンジュが最後。反対したら皆処刑」
なるほど、それで下のヴァナラ族は殺気立ってるのか。
・・・・・・カプルこそ変わってるよな。
と、のんびり話している場合じゃなかった。
下から、また怒声が聞こえたのだ。
「いい加減に離れろ!オイ、雌猿ごと斬れ!」
「へい兄貴!」
片方のチエダイが腰の刀を抜いている。
「離れるんだリータ、本当に切られる」
「嫌!絶対嫌だ!」
「へへへ。よくも俺を殴ってくれたなぁ。お礼に嫁ごと斬ってやるよ」
このチンピラがモンジュに懲らしめられた小悪党らしい。
「お前が悪い!子供を殺したから!!」
「そうだ悪党め!」
またも、周りの猿人達が騒ぐ。
「ひひひ、じゃ止めてみろよ。俺に手を出せば王子様と同じ死刑だぞ~」
長い耳、長い鼻で笑う顔は悪魔そのものだ。
そういわれたら周囲の猿人達には手が出せない。
それに、俺にも何も手が無い。俺が逡巡していると突然巨大な物が視界に飛び込んできた。
正義感に燃える巨漢マヒシャ君だ。
「うおおー!!」
彼は雄叫びを上げなら刀を持つ子分に肩から体当たりした。
マヒシャから見るとモヤシのような子悪党は弾き飛ばされた。
「死刑だというなら、私がなる!モンジュ殿は死んではいけない!!」
身体を張ってモンジュを救おうとしているマヒシャ。
どうやって登ってきたのか、今マヒシャがいる樹上の家屋の高さは20メートルはある。
マヒシャはチエダイの兄貴分とモンジュの間に立つ。
「モンジュ殿は殺させない! この方は死んではいけない!」
マヒシャの身体はさっき俺と話していた痩せた大男から、闘志漲る筋肉の塊へと変化していた。オークの戦闘形態である。
「仲間を想い、子供を助ける、このお方は立派な人だ。死ぬ理由が無い!」
「お前、オークか? オークなのか? 初めて見た」
チエダイの兄貴分バログは、マヒシャの姿に目を丸くしている。突然反抗された事よりもオークの存在に驚いているようだ。
「おい、バイン起きろ。コイツを捕まえたら高く売れるぞ!」
「何故だ? 私をオークと知っているのか? 」
マヒシャは自分の種族の名が出た事で驚いている。俺はチエダイとやらが異界人である事に確信を持った。つまり、こいつらが悪事の元凶だ。
「うるせぇ化け物! 生かしてやるから有り難く思え!」
バログはまだ呻いているバインを見て、周りのヴァナラ族に怒鳴った。
「おい! 猿共、その化け物を捕まえろ! お前らの無礼は許してやるぞ。俺達はモンジュの首だけもらって帰る!」
バログは腰の剣を抜いて猿人達を脅し始めた。
「早くしろ! ロープを持って来い!」
彼一人ではマヒシャに勝つ自信が無いのだろう。
俺は課長達に接して異世界人を知っている。実は体力勝負だと見かけほど強くないのだ。彼らの戦闘技術は魔法ありきだからだ。
そして、魔法にしても高い能力者はほとんどいない。
ま、最初は驚いたけどね。
俺達研修受けた7人の日本人はもう慣れているし分かっている。
異世界人どもは、俺達より弱いのだ。
バログが周囲を睨み付けている隙を突いて俺はマヒシャの後ろに飛び降りた。
音も無く着地するとマヒシャの股の下からバログとの間を詰める。
余所見しているバログに巨体のマヒシャの影から襲い掛かった。
俺の体重とスピードに乗ったパンチはバログの股間を直撃した。
卑怯ではない!
身長140センチの今の俺だと丁度そこにパンチが当たっただけだ。
初撃から、そのまま踏み込んで今度は下から全身の力を込めたアッパ-で股間を打ち抜く!
卑怯ではない!たまたま、身長差であたっただけだ。
初撃から2打目まで一秒。さらに追撃する。
「ぐはぁ、、、」
バログの声を頭上で聞きながら、偶然目の前にある股間にパンチを連打させる。この小人の身体はとても使い勝手が良いのだ。
パワーは無くても使い方次第である。
激痛で身体を折り曲げたバログの顎を下からぶん殴ってKO。
行動不能にした。
彼が頭を下げないと顎にパンチは当たらない。仕方ないのだ。
「サトシさん、、、」
「すまん、様子を見てて出遅れた」
正直、この異世界人など怖くない。それよりマヒシャの信頼を裏切るのが嫌だ。
というか、それは格好悪いしな。
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