第15話 神速のモンジュ
俺はマヒシャの思わぬ行動に困惑したが、それ以上に敵は混乱していた。
「クラーラ! フォーメーションだ!」
「クララ! 盾して! おサルが襲ってくるで」
クララかクラーラだか知らないが、三人組の行動は強固な盾である女騎士を基盤に成り立っているらしく、気の毒なほど狼狽していた。
だが、俺は同情しない。
お前らの悲鳴で女騎士が我に返るだろうが!
俺はマヒシャの肩の上で方針を決めた。
このまま、目立たないように肩の上で息を潜めるより、俺も行動に出る。
「モンジュ。カプル。そいつらを殺すな。マヒシャの彼女のご友人だ。丁重に扱ってくれ!」
俺は二人に無茶な注文をした。
が、
「承知」
「ほい」
モンジュもカプルも全く動じなかった。
さすがに勇猛を自認するヴァナラ族である。
「サ、サトシさん。いきなり彼女だなんて、、、」
はぁー?! お前が引くなよ!
逡巡するなら、突撃前にしろ!
俺を巻き込む前にな!!
と、思ったがマヒシャは頭が豚だったな。
まあ、モテナイ悲しみと自信が無いのは俺にも分かる。
分かるが、今は迷うな!
「命を懸けてるんだろ? お前がいい奴なのは俺が知っている。行け!押せ!!」
というか、昨日情報を教えただろ?
魔法剣士と魔法使いが恋人同士で、女騎士はフリーだって。
それでいつも機嫌が悪いって話して、昨日一緒に笑ってたろうが。
「グイグイ行けって! 命を懸けれるほどの女なんて、もう二度と会えないかもしれないぞ!」
もちろん、本当はそんな事わからない。
だが、マヒシャがしくじったら俺の命も危ないのだ。
俺は必死でマヒシャを励ましていて、左右の戦いまでは目に入っていなかった。
だから、俺は見てないが、その時、モンジュとカプルは相手を圧倒していた。
それは、どうやらマヒシャが敵チームの要である女騎士を引き付けているという有利な条件もあっての事らしい。
俺の右側では、モンジュが配下のスーン、チャイと共に魔法剣士ユリアンに襲い掛かっていた。
長髪を三つ編みにしている魔法剣士ユリアンは右手に片手剣、左手に魔法というスタイルだ。
この攻撃重視のスタイルが活きるのは盾をしてくれる仲間あっての事。
一人ではヴァナラ族のスピードに全く付いて行けない。
膂力ではユリアンの方が強いが、片腕で振るう剣ではスピードも精度も落ちる。ましてや、魔法では構えてエネルギーを発生させている間に標的のヴァナラ族は目の前には居ないのだ。
魔法が生み出すエネルギーは強力だが一度生み出したエネルギーは術者本人にもフィードバックする事ができない。それをモンジュたちは知っている。チエダイの騎士団は長く彼らに専横を振るっているからだ。
一方、ヴァナラ族達も迂闊にユリアンの間合いに踏み込めない。魔法も剣もユリアンの一撃は重い。命中すれば必死だ。
だが、それを知っていても果断の王子モンジュはユリアンの間合いに正面から飛び込んで、剣を振り上げる。
ヴァナラの剣は片刃の曲刀。モンジュは地面すれすれの低い位置で踏み込み、ユリアンの右手首を峰で打つ。
ユリアンはそれを見取り半身ごとモンジュの攻撃を避け、その回避動作をそのまま攻撃動作へと転じた。
目の前で伸び上がったモンジュの身体を狙う攻防一体の動きである。
だが、それこそモンジュの狙いだ。
ヴァナラは片手、片足一本で枝に摑まり木々を渡る。
この時、モンジュの両足は地面をしっかりと握っている。
大地を把握した両足は伸び上がった身体を急速に地面に引き寄せる。
そのスピードは常の人間の常識を外れている。
そして、その柔軟な身体は左上から襲ったユリアンの剣撃をかわした。
絶対の一撃を外した事でわずかに体が流れるユリアン。
地面に屈する力を蹴り上げる力に変えたモンジュがユリアンの右側に位置した時、神速の剣はユリアンの右手首を打ち据えていた。
剣を落としたユリアンに左右からスーンとチャイも迫る。
ユリアンは左手の魔法を解き、悠然と立つモンジュに降参した。
戦意を無くした彼をサトシの注文通り捉えて見せた王子である。
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