異世界調査会社

鶴見 丈太郎

第1話 プロローグ


 東京都の北部、埼玉県に近いその町では2週間ほど、小さな異変があった。

 ただその異変を知る者は少ない、例えば駅前にある交番に詰める警官達だ。


「すいません。道を聞きたいんですが」

 40がらみの人の良さそうな男である。交番にはよく来るタイプの客なのだが、河東浩巡査は男から住所が書かれた紙を見せられて内心呟いてた。

(またかよ)と。


 河東巡査は丁寧にその住所にあるビルへの行き方を教えた。

「ここから10分ほどです。一階に喫茶店がありますから、分かりやすいですよ」

 男はまだ20代の河東に頭を下げて出て行った。


「また、あの会社か?」

 河東に声をかけたのは先輩の柳川巡査部長だ。

「このところ、日に10件はあるな」


「はい、別に分かりにくい場所でも無いですけどね」

 駅前から徒歩10分くらいの距離にある会社がスタッフを募集しているのだ。

 しかも、交番に道を尋ねに来る者の多くが、地図付きの住所をダウンロードした用紙まで持参している。

 何処にでも方向音痴な者はいるが、毎日10名以上の人間が分からないような場所ではないのである。


 河東巡査が不審に思うのも無理はない。

 それは、その会社の一次試験なのだ。才能の無い物は試験会場に辿り着く事もできないのである。

 逆に、才能の有る者は試験を受けている事さえ気が付かない。

 




「イクネ サトシさん、採用です」


「は、はい?」


「来月から出社できますよね?」


「はい、もちろんです」


「それでは、来月からよろしくお願いします。それと、最初の一月は研修になります。これに必要な物を書いてますので、準備は万端にしてくださいね」


「はい。ありがとうございます」

 俺は頭を下げて、面接室を出た。

 信じられない。

 俺は面接時間の10分前にこの会社にやってきて5分前に面接開始し、すぐに採用されたのだ。

 つまり、まだ俺の面接予定時間ですらなかった。


 前の会社でやらかしてしまった俺は、再就職に苦労していた。

 何十社も面接も受けては落とされていたのに、あっさり採用されたのだ。


 しかも、面接では、ほとんど質問もされず変な石を握っただけだ。

 長さ15センチほどの八角系の棒状の石は俺が握ると強い光を放った。だから、そういう仕掛けのある石なんだろう。


 とにかく、その光を見た途端、面接官の顔色が変わって俺は採用された。

 なんか、よく分からないけど、失業保険が切れる前に就職が決まってよかった。来月まで、1週間も無い。しっかり、準備しないと。 

  

 

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