第2話 研修期間3週目


「暇だな、、、」

 俺は無人の錬金室で独りごちる。

 

 だが、誰もいない。


 はあ、異世界の調査会社に就職したのはいいが、研修期間3週目は暇すぎる。

 2週目までは楽しかったな、、、

 土日は休暇で家に帰れたけど、仕事が始まるのが待ち遠しかったし、、、

 みんなでお互いの姿を見て盛り上がったり、魔法の使い方を習ったり、ダンジョンでの実戦訓練も皆で励ましあって頑張れた。

 それが、3週目から個人技能訓練とかになって、俺だけ一人で放置だよ。

 くそ課長め、何が人手が足らないだ。初日だけちょっと教えて後は勝手に覚えろって、それ研修か?

 何が、『サトシさんは一番稼げますよ』 だ。

 こんな所にずっと一人だと、寂しくて死ぬって!

 まあ、金に釣られて薬作りを引き受けたのは俺だけどな。だって、戦闘とか危ない目に会わないスキルアップだって言ってたし、、、  


 それに俺はパーティでの役割は回復なんだよな。

 ぶっちゃけ、チュートリアル的な戦闘だと俺の出番は全く無い。実戦訓練でも、出番がなかった。仕方ないから、課長が自分で怪我してそれを回復したくらいだ。まあ、みんな強いからな。


「よし! 仕事するか」

 俺は俺の為に用意された錬金室を見る。

 俺は何故か『医薬』というレアスキルを生得していた。

 課長たちはソレを発見して驚き喜んだらしい。彼らの尺度ではそれは高度な錬金術だ。課長の世界の錬金道具と薬の材料、さらにレシピも大量に用意されていた。

 だが、レシピなど俺には不要だった。

 本来到底五日ではこなせない分量らしいが、見た事ない道具も初めて見た材料も何故か俺には理解できてしまい。高度で難解な薬も最初から全て作る事ができた。出来上がった薬は課長達が用意したガラス容器に詰めて分類して保存している。残った材料は極僅かだ。

 

 ま、だから最初だけ教えて課長たちはいなくなってしまったのだが、、、


「仕事するって言っても、材料が無いんだよな」

 5日分の材料は2日経たずに使いきってしまった。誰も話し相手がいなかったので仕事に没頭するしかなかったからだ。

 材料を運ぶついでに暇つぶしのDVDでも用意して欲しかったが、さすがに無理だよな。会社にそんな期待はできるわけない、、、

 

 となれば、外に出て材料を採取するしかない。第1週に皆で外に出ているので様子はわかる。それにここは安全だから研修先に選ばれている所だ。


 ここは軸の迷宮の第2階層。並行存在する次元の迷宮の一つであり、フタナ島にあるメル山のダンジョンだ。

 軸の迷宮ってのはそれら異次元先の迷宮を連ねて存在している。異次元を移動できる不思議な迷宮だ。その軸の迷宮を利用すれば異世界転移が可能となるらしい。

 そして、その軸の迷宮を踏破して日本まで辿り着いた異世界人が俺の上司達であり、彼らが立ち上げたのが、俺の就職した会社だ。

 俺は外資系ではなく異世界系に就職したのである。


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