第18話 チエダイの魔術師
俺達が森の奥に進むと遠くから怒号が聞こえてくる。
「何だ?」
「揉めているのだ。父の様子がおかしくなってからは、毎回のように揉める」
「何を?」
「父の言葉が少ないのだ。だが、命令だけは多く出る」
「それも、不可解なものばかり。将軍の周り、いつもチエダイ、いる」
「なるほど」
本陣を守る護衛がさっきの3人だけってのはおかしいもんな。
ヴァナラの多くが不信感を持っているのか。
それを裏付けるかのように、俺達が白い旗の下に向かうと地面や木の上にいる護衛のヴァナラ戦士達は誰もモンジュを捕らえようとしない。
それでも、俺は周囲や樹上からヴァナラ戦士達が見張っていると思うと内心ビクビクしていたが、モンジュは全く動じない。こいつが一番危ないはずなのに、肩で風を切って歩いていく。
俺が本陣と目している場所に到達した。森の中の少し開けた場所に巨大な椅子が据えてあり、その椅子に大きな猿人がグッタリと座っている。
これがオンコットさんだろう。両脇に偉そうな感じの男達が立っているしな。これって、護衛ってより獣医みたいだけどな。二人で何か囁きあっているみたいだ。なおさら悪者感が出てる。
ただ、問題なのはそのオンコット将軍の前だ。その前に座る大柄な若いヴァナラを、左右に居並ぶ年寄りの猿人が大声で責め立てている。
「今のどういう事だ!」
「話違うぞ!!」
「お前、太子違う!!」
何か、ただ事じゃない感じ丸出しなのだが、それでもモンジュは恐れずズカズカと歩いていく。
「この醜態は何だ!父上の御前で何をしているのだ。パリヤ!!」
そして、いきなり怒鳴りつけるモンジュ。
少しは遠慮しようぜ!
お前命を狙われてるんだぞ。
「おお、モンジュ」
「無事であったか」
「今、父上が目覚めたぞ」
「左様、モンジュの疑いは晴れた」
なんか、年寄りヴァナラ達の立場は微妙なのか?
「この年寄りたちは?」
「族長達だ。それぞれの戦士を率いてラグンまでやってきた」
カプルの説明によると、オンコット将軍の盟友たちで、彼らは別に上下関係ではないらしい。ちなみにラグンの長、チランジも本来その一人だ。
「皆、何してる! モンジュを捕らえろ!!」
モンジュの姿を見て一番驚いていた、大柄な若いヴァナラが叫びだした。
だが、誰も彼の命令は聞かない。
それどころか、族長達は若者に冷たい目を向ける。
「パリヤ、そこ退け」
「そうだ、そこモンジュの席」
「さっき、オンコット将軍が言ったぞ」
樹上で待機しているヴァナラ戦士達も、若者の命令を無視しているようだ。
「それで、あの若いヴァナラは?」
「パリヤだ。モンジュの異母兄。力は強いけど、馬鹿だ」
すげぇな。カプルさんバッサリいくなあ。
いや、呑気に見てる場合じゃないか。
そう思った瞬間、モンジュが叫んだ。
「チエダイ共、父の側から離れよ! もはやお主等の助力はいらぬ」
その声が響くや、族長達は機敏に左右に散り、頭上の枝が揺れる。ヴァナラ戦士達が動き出したのだ。
んん?
俺がなにやら不審な空気を感じると同時に、突然オンコット将軍が立ち上がった。さっきまで意識が無いかのように、グッタリしていたのに?
「控えよ! モンジュは不敬により処刑だ! 既に申し伝えているぞ」
大柄なオンコット将軍の咆哮は空気を震わせてヴァナラ達に届いた。
それは、とても病人のものとも思えない強い意思が伝わる。
「見よ!見よ! モンジュは死刑、王太子ではない!」
喜んでいるのはパリヤだけだが、オンコットの意向は全てのヴァナラに届いたらしい。枝を揺らす音がモンジュの頭上へと移動してくる。
けど、アホかコイツら。
「解呪!!」
なんで、ヴァナラは強い癖にこんなに単純な手に引っかかるんだ?
「おい、チエダイ。だっさい幻視術なんてしてんじゃねぇ!!」
俺の解呪は瞬く間にチエダイの術を打ち消した。
オンコット将軍はぐったりしたままだ。
「おい侏繻!貴様、何処の術者だ!!」
「何故、我らの術を見破ったのだ!」
はあ?
腕利きとか聞いてたけど、二人揃ってボケらしい。
突っ込みが居ないとバランス悪いぞ。
「何故って? あんな下手糞な幻視、見てるこっちが恥ずかしい。バレバレなんだよ、下手糞!」
「今のは、俺もわからなかったぞ、凄いなサトシ」
カプルが珍しく俺を褒めてくれる。
よく見たら、チエダイも顔真っ赤にしてるけど、本心だ。あの幻視は下手だ。
なんせ俺はオオヌキさんの幻視術を何度も横で見てるからな。
攻撃魔法以外は何でもできるオオヌキさんだけど、その多彩な技の中でも幻視術はピカイチだ。
凄すぎて、課長達が腰を抜かしそうになってたからな。
オオヌキさんに比べたら、安物のCGくらいの出来なんだよな、チエダイって。
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