第20話 「神界」の魔人

 「神界」、神の世界は美しかった。

 元いた世界――「神」達は人間界と呼んでいる――にはない神々しさがあった。


 雲の地面を踏んで歩く。

 金色に輝く建物が連なる街には僕たち以外に誰もいなく、街が広いだけに寂しさを感じる。


 そして辿り着いたのは他の建物に比べても一際神々しく輝く大きな神殿のような建物。

 「時神」に促されてその中に入る。

 そして、その中の一室に立ち入り、そこにいる五人の気に呑まれて足が止まる。それは僕だけではなかったらしく、「時神」以外の全員、つまり僕のパーティーのメンバー達は全員止まっていた。


「アーツを連れてきたよ~」

「ごくろう」


 「時神」と、部屋の一番奥にいた老人が短く会話を交わす。

 口振りからして恐らくその老人は「時神」よりも立場が上なのだろう。


「さて、まずは自己紹介からかのう」


 老人が僕達に向かって話しかける。

 口調そのものは温和なおじいちゃんのようだが、その中には普通のおじいちゃんにはない確かな威厳を感じる。


「わしは『神』共の長をやっておる、『創世神』じゃ」


 そして、他に座っていた四人が順々に自己紹介をしていく。

 一人、「破壊神」と名乗った「神」だけが常に僕に向かって殺気を放ち続けていたが、その他の三人は優しく挨拶をしてくれた。……これが演技という可能性も捨てきれないが……。

 そして、こちら側、つまり僕達のパーティーの紹介を終え、今日のところは解散となった。

 今回は顔合わせが目的だったらしい。


 ……全員に「鑑定」を使ってみたが、全員全部「読み取り不能」だった。


 ▼


 僕達はメイドの天使に僕達が宿泊するホテルに案内してもらう。

 そのホテルは神殿からしばらく歩いたところにあった。

 神殿からホテルの道中、あるところを境に急激に人口が増えた。恐らくそこから神殿側には進入が規制されているのだろう。


 境を越えてからホテルまでは多くの店が立ち並び、背中に白い翼を生やした天使達が商売をしている。

 その活気は人間界の王都にも劣っていない。


 僕達はそこで適当に食事を調達しながらホテルに向かう。

 途中、寄った店で店番をしていたのロリ巨乳な天使ちゃんを眺めていたら普段はおとなしいアレシスに腹を抓られた。痛い。


 そんなこんなで目的のホテルに着いたらしく、案内役の天使が口を開く。


「あそこが皆様に止まって頂くホテ――」

「――キャアアアアアアアア!」


 その声は唐突に聞こえてきた悲鳴に打ち消される。

 ここは治安が良いと思っていたが、そんなことはなかったようだ。

 僕達は悲鳴の聞こえた方に走って向かう。


 そこにはそこら中から血を流した幼い天使とそれを冷ややかな目で見下す黒い翼の男天使がいた。いや、冷ややかというのは不適切、その目には感情が感じられない。


―――――――――

名 前:トゲザー・クレムレー

性 別:男

年 齢:38

種 族:魔人

職 業:魔人

スキル:「同族殺し」

種族スキル:「魔王忠誠」

―――――――――


「なっ!?」


 そのステータスが信じられずに口を開けてしまう。

 人間界は勿論、その地下にある「魔界」からも相当の魔力を使わないと破ることができず、破る者がいたら必ず「神」達にそれが伝わるはずの結界を突破して魔人が「神界」に侵入してきていることに驚きが隠せない。

 もしかしたら「神界」の中にいる天使を魔人にしたのかも知れないが、それにしても結界内に侵入しなければならないことは変わらない。


 しかもスキルが最悪だ。


―――――――――

同族殺し:生まれたときの種族が同じ者に対して、より強力な攻撃を放つことができる。

―――――――――


 恐らくは技に威力が上乗せされるのではなく、「同族殺し」という名の技が使えるのだろう。


 翼からしてこいつは恐らく生まれたときの種族は天使。

 「神界」で暴れられると最悪だ。

 無差別にこのスキルを放たれると死体が量産される。


 僕達は天使ではないのでこのスキルは恐れることはないが、周りに多くの天使がいる中でで戦うのは分が悪すぎる。

 せめて場所を移動できれば……。

 そう考えた僕は、時空魔法の渦を敵の足元に展開して天使のいないところ――境の向こう側にワープした。

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