第15話 「時神」との戦い

 僕は時間の止まった空間の中で「時神」と向かい合っていた。


 僕達の間にはちょっとしたことが戦闘開始の合図になりそうな一触即発の雰囲気が漂っている。

 しかし、そのきっかけというものは起こり得ない。僕と「時神」以外の全ての時は止められているのだから。


 一瞬にも永遠にも感じられる緊迫した時間の後、最初に動いたのは「時神」だった。

 しかし、そのことに僕は気が付かなかった。

 僕が彼女の接近を認知したのは僕が吹き飛ばされてからだ。


 これによって察する。僕は自惚れていた。

 僕は、「時神」のスキル、「時」が効かないのは僕が彼女と同格である「神」だからだと思っていたが、それはとんでもない自惚れだったのだ。


 ――僕に「時」が効かなかったのは彼女が手加減していたからだ。


 僕と「時神」は同格なんかじゃなかった。

 僕が認知できないほどの速度は異常だ。反応できないのならともかく、認知すらできなかった。

 つまり、「時神」は僕に「時」を使用したのだ。それができたのだ。


 「時神」は酷く怒っているようだった。

 恐らくは、覚えていないだけで僕が何かをしてしまったのだろう。

 あるいは間接的に、またはしらないうちに何かをしてしまったのかもしれない。(実際は魔力を大量に消費する原因を作ったからアーツに怒りを向けている)

 だから、わざわざ僕だけを「時」のターゲットから外し、直接戦いを仕掛けてきたのではないか。


 彼女は「時」を使用するだけで僕の認知できない時を渡ることができる。


 このままでは何もできないで殺されてしまうだろう。

 「不死」があるから死にはしないけど……。そして勿論相手にそのつもりがあればの話だが……。


 僕は「魔法適性(時空)」で時空魔法を使用し、時間をねじ曲げようとする。

 しかし、人間が使える程度のスキルである「魔法適性(時空)」如き、しかもそこに含まれる「時間」と「空間」の片割れだけでどうにかなるわけがない。

 「時」は容易く時空魔法の効能を上回り、時間をねじ曲げてくる。


 僕は何もやり返すことができずに殴られ、蹴られ、吹き飛ばされる。

 しかもその技を見ることすらできないのだ。


 如何に強力な武術や魔法を使ったところで、当たらなければ意味がない。

 「時」を止められる彼女に攻撃を当てるのは至難の業……いや、それすらも通り越して不可能だ。


―――――――――

名 前:アーツ・バスラ

性 別:男

年 齢:14

種 族:神

職 業:創造神、冒険者[剣士]

スキル:「創造」「鑑定」「不死」「魔法適性(全)」「武術適性(全)」「ステータス偽装」「過去視」「魔力視」「隠密」「索敵」「蘇生」「巻き戻し」

―――――――――


 何か……何かないのか……。

 地面に這いつくばり、自らを「鑑定」して打開策を考える。


 何も思い浮かばない……。


 時間を操るスキルは強すぎる。こちらも時間を操らなければ勝ち目はないだろう。

 しかし、「時」は時間系のスキルの中でも最高峰。

 僕が持っている「魔法適性(時空)」や「巻き戻し」などを含む他の時間系のスキルでは打ち破れない。


 「時」は魔法ではないので魔力を消費しない。そのため、魔力切れに期待するのも無理。


 「創造」で「時神」と同じスキル、「時」を作り出すことも可能だが、それには二つの問題点がある。


 一つ目、何かしらの落とし穴が必ずどこかにある。

 僕は「時神」と「創造神」は同格だと僕は考えている。

 勿論経験なども加味すれば「時神」の方が上なのだろうが……。

 それなのに片方のスキルでもう片方のスキルを作れるなんてリスクなしに行えることだとは思えない。


 二つ目、僕と「時神」の基本的な戦闘経験、戦闘能力の差。

 時間を操る戦いでは、他のスキルはほとんど役にたたないだろう。

 つまり時間の操作に慣れない僕が時間の操作以外の要素がほとんど介入できない戦いで何ができるかと問われると、何もできないと答える他ない。


 勝ち目は……ない。


 そうやって勝ち目を探っている間にも「時神」の猛攻は止まらない。

 未だに僕が死んでいないのは、何かに怒っている彼女が僕相手にストレスを発散するためにゆっくりと嬲るつもりだからだろう。


 遂に「時神」が腰に付けていた剣を抜いた。

 そのことが僕の思考に拍車をかける。


 このままでは解決しない。

 加速された思考でそう判断した僕はリスクを承知で新たなスキルを作り出す。


―――――――――

時:時間を自由に操ることができる。他のあらゆる時間系魔法よりも優先度は高い。

―――――――――


 何だかんだと問題点をあげといて何だが、結局はこいつに頼るしか方法はない。


 一瞬でこのスキルを創り出すと、僕は「時神」に向かっていく。


 しかし、このスキルを使用しても、やはり相手の方が上手だ。

 刹那の間に吹き飛ばされてしまった。

 仕方がないので他のスキルも併用する。


 「魔法適性(強化)」。

 これで自身の体に強化魔法をかける。

 それでも相手の有利に変わりはない。


 そのとき、僕はある案を思いついた。


 時間系以外のスキルは使えない。時間系のスキルは「時」を上回るものがない。そして、相手はその無敵の「時」を持っている。

 一見絶望的だ。


 しかし、この「時」を上回ることができる方法がある。

 新たなスキルを創り出すことができる僕にしか使えない、作戦とも言えない方法だが、確実に「時神」の「時」を上回れる方法が。


―――――――――

スキル強化:任意のスキルを強化することができる。

―――――――――


 これで僕の「時」を強化してしまえば勝ちだ。


 僕は「スキル強化」を作り出し、「時」と「スキル強化」のスキルを併用する。


 すると、途端に「時神」の動きが遅くなった。

 僕の「時」と「スキル強化」が相手の「時」を追い越したのだ。


 そのまま、僕は「時神」を斬りつけた。


 唐突に動きの速くなった僕に気付き驚いたようだったが、「時神」は反応できない。


 「時神」は遂に地に伏せた。


 ▼


「あぁ~、負けちゃった~」


 僕に襲いかかってきたときとはうって変わって軽い雰囲気で「時神」はそう呟いた。

 もしかしたらさほど恨みはなかったのかもしれない。

 きっと僕が「神」の荘厳な雰囲気に押されただけなのだろう。


「私はしばらくここに滞在してから帰ろうかな~」


 「時神」はそう独り言を言いながら背を向けた。


「あ、そうそう、『創造』はあんまり使いすぎないでね~。しっかりペナルティはあるから~」


 予想通りの、そして期待外れな言葉を告げて「時神」は去っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る