第32話 一歳の魔法使い

 僕は即死魔法で「夢の魔王」を殺した。

 取りあえず、僕が倒したかった敵のひとりは倒すことができた。


 しかし、まだ問題はある。


「いるんだろう?」


 僕は短く言う。

 そう、「夢の魔王」だけの力であんな高位な火魔法や風魔法が使えるとは考えにくい。

 となると、必ず魔法を使った、あるいは「夢の魔王」が魔法を使える状況にした者が居るはずなのだ。

 そして、火魔法と風魔法のどちらも使える人間なんて僕が知る限りひとりしかいない。


「いるんだろう? ルイ・クルトゥス」


 僕は、その名前を呼ぶ。

 「夢の魔王」に力を貸したであろう魔人の名前を。

 「魔法適性(全)」を操り、一歳にして全ての魔法を使いこなす者の名前を。


 そして、黙ってそいつは現れた。魔法で姿を隠していたのだろう。

 全ての魔法が使え、しかも魔人になったとはいえ彼はまだ一歳だ。話すことはできない。一応言葉は理解できているようだが……。


 そして、前置きもなしにルイは両手に風魔法の球を生み出す。

 それと同時に僕の足下で物凄く濃密な魔力が動く気配。


 ドォォォオオオオオオオン!!!!


 数瞬前まで僕の足があった真上で、全てを灼く大爆発が起きる。

 しかし、僕はそのとき、既に地面を思いっきり蹴ってけている。

 勿論仲間たちが被害を被るのをける為の対応も忘れない。時空魔法を広範囲に展開し、仲間たちには決して被害が及ばないようにする。


 しかし、ルイは次々と攻撃を仕掛けてくる。

 炎の柱が地面から飛び出してくる。

 炎の槍を音速で撃ち出してくる。

 炎の輪を僕の周りに展開し、段々と縮めてくる。


 僕はそれを全て捌く。

 時空魔法で、炎を全て異次元に送る。

 しかし、ルイはあきらめる気配も見せない。

 恐らく、燃え盛る炎に風魔法で酸素を送り込むという戦法を取ろうとしているのだろう。

 そして、何のこだわりがあってか、他の戦法を使おうとしない。


 しかし、攻撃が単調で避けやすいとは言え、攻撃から攻撃までの時間の差がほとんどなく、このままでは押し負けてしまうだろう。

 ここらで反撃に出ておいたほうが良さそうだ。


 取りあえず、時空魔法を仲間たちの周りに半球状に展開して守りを固める。

 時空魔法があれば、ほとんどの攻撃は通らないだろう。


 そして、僕は如何なる攻撃も通さないという「外部干渉不可」を存分に発揮しつつ、ルイに特攻をかける。

 ルイは物凄い勢いで火炎弾を放ってくるが、僕には何一つ効かない。

 当たって消える。当たって消える、当たって消える……。

 何度当てたところで効きはしない。


 ルイは時空魔法を使う。

 しかし今の僕の体は、表面上だけでなく内部にも干渉はできない。だから効かない。


「グフゥ……」


 しかし、僕の体は確かに傷付いた。


「……な……ぜ……?」


 効かないはずだ。

 それなのに何故僕に攻撃が通っている?


「アーツ! 時空魔法は空間だけでない! 時間も操れるのじゃぞ!」


 レヴィが僕の時空魔法の中から声をかけてくる。

 そしてその言葉でようやく理解した。


「なるほど……過去・・の僕に傷を付けたって訳か……」


 理解した。

 の僕には干渉ができなくても、過去・・の僕には干渉ができる。

 そして、過去に起きたことは、現在にも持続される。

 過去の僕に傷をつけることによって、間接的・・・に僕へ干渉したのだ。

 全く、一歳の頭脳とは思えない。


 だが、その程度では無意味だ。

 「魔法適性(全)」があれば、回復魔法を使うこともできる。

 僕は即座に回復する。


 そして「身体能力強化」を使い、地面を蹴って最高速でルイに迫る。

 そして手でルイに触れて……。


「ウグゥ……」


 一瞬で命を奪い取る。

 バサッと、一歳の軽い身体が床に落ちる音が聞こえる。


「……悪いな……」


 こんな能力を手にせず魔人になんてされなければ、今頃は普通の子供として、両親と当たり前の生活を送っていたのだろう。

 だから申し訳なく思う。本人にも、両親にも……。


 だが……。


「だが、こっちにも為すべきことがあるんだ」


 僕は戦争に勝たなければならない。

 勝たなければ、仲間たちとの幸せな生活はやって来ない。

 だから僕は戦って、そして勝たなければならない。幸せな生活のために。


 僕の新たな「創造」の力は十分に分かった。

 自分の力を確かめるという当初の目的は達成と言っていいだろう。


 だから次の目的は、この戦争で勝つことだ。


 この戦争に慈悲なんてなくて、だから可哀想だと思いながらもルイを殺した。

 僕はそれを申し訳なくは思うが、後悔はしない。


「さあ、次は『存在の魔王』だ……」


 それが自分自身に向けた言葉なのか、仲間たちに向けた言葉なのかは、自分でも分からなかった。

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