第24話 失ったもの

 無事に「神界」の危機を食い止めることができた僕は、今度こそ人間界に帰ることにした。


 しかし、心残りはある。

 僕が「神界」の制御装置を見るために建物の残骸を退かしたとき、そこには「魔王」がいなかったのだ。

 天使の中でも優秀な者ばかりで構成された警備隊の調査から約一週間もの間隠れ続け、僕のスキルを消し、さらには僕のパーティーメンバー全員に加え「時神」までいる中で互角以上に戦ったあの「魔王」をこのまま「神界」の中に留め続ければ、悪いことが起こりかねない。


 唯一人間界へ降りられる神殿の横にパーティーメンバーと「時神」を連れて到着すると、そこには心残りであった「魔王」がいた。


「何の用だ?」

「いやぁ、『神界』が終わりかけたときは流石の私も冷や汗をかいたよ」

「何の用だ?」


 二度目は若干殺気を込めて言う。


「私が悪かったからそう怒らないでくれよ」


 悪かったと言いながらどこかふざけたような雰囲気は全く変わる気配がない。

 そう思ったが、しかし、次の瞬間驚くほどに纏う雰囲気が変化した。


「今の君なら倒しやすいと思ってねぇ……」


 感じられる確かな殺気に怯みつつ、僕は質問を繰り返す。


「今の君なら?どういうことだ?」

「ふむ、まだ分かってないのか」

「……?」


 尚も首を傾げる僕に、「魔王」は斬りかかってきた。

 僕は咄嗟に地面を蹴ってかわす。

 そして魔法も剣も使えない僕は、勝ち目がないと思って新たなスキルを「創造」し――できなかった。

 「創造」が発動した気配が全くなかったのだ。

 僕は再びスキルを消されたのと思って自分を「鑑定」する。


―――――――――

名 前:アーツ・バスラ

性 別:男

年 齢:14

種 族:神

職 業:創造神、冒険者[剣士]

スキル:「創造」「追跡」

―――――――――


 しかし、もともと持っていた「創造」に加えて、後から「創造」した「追跡」もしっかりとそこには書いてあった。


「どうして……」


 僕の問いには答えずに再び「魔王」は斬りかかってきた。

 受け止めることも受け流すこともできない僕はひたすらに避け続けるしかない。


 そんな中、「時神」が口を開いた。


「この間言ったペナルティーだよ~。『創造神』は『創造』を使いすぎると使えなくなるんだよ~」


 そんなこと知らなかった。


「『神』とはいえ、ペナルティーもなしにあんな無茶苦茶なスキルを『創造』しまくっていたんじゃバランスが崩壊しちゃう」


 確かに「創造」は強力すぎる。

 それは僕も感じていたことだ。


「だから全ての神を造り出した生みの親である『創世神』はこのスキルに条件をつけた。『創造』には想像力が必要だ。想像できないものを創り出すことができるはずがない。条件というのは、『創造』を繰り返す度に使った分だけの想像力が失われていくという仕組みだよ~」


 驚きだった。

 ペナルティーに「想像力」が求められているなんて夢にも思っていなかった。

 しかし、言われてみれば思い当たる節は幾つかある。最近確かに想像が働かないことが多かった。


「そうそう、そこの『神』の言うとおりだよ」


 「魔王」は一旦ここで言葉を一回区切り、雰囲気を変えて再びしゃべり出す。


「そして、君の想像力は完全に尽きた」

「……えっ?」


 その言葉は僕を確かに揺さぶり、頭を思いきり打ちつけたときのような感覚を味わう。


「『神界』の制御装置なんてものを創った時点でで想像力は殆ど残っていない。それなのに『追跡』なんてスキルまで取得した。だから想像力は完全に尽きたんだ」


 想像力が完全に尽きたということは様々な問題が起こる。

 日常での会話ひとつにも支障が出るし、過去を振り返ることも未来に思いを馳せることもできなくなる。


「完全に尽きたと言ってもまだ話を若干補完する程度の想像力は残っているさ。でも、もう『創造』は使えないよ」


 ただ「創造」を使えなくなるだけ。こうして言葉にすると大したことではない気がしてくる。

 しかし、僕は今まで完全に「創造」に頼りきっていた。

 それだけに、「創造」が使えないというその事実は僕の心をへし折った。


「――ちっ、もう来たか」


 「魔王」が何かを言ったのも。


「名乗り遅れたね。私は『存在の魔王』。『存在』を司る『魔王』だよ」


 「|魔王(・・)」が何かを言ったのも。


「お主ら、大丈夫かの?」


 誰かが誰かに問いかけたのも。


 全て遠いどこかでの出来事のように思えて。


 茫然自失とした僕をキーが抱えて、僕達は「神界」から帰った。

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