第35話 手紙
俺は今、「森の魔王」と名乗る、誰がどこから見ても頭がおかしいと思うような髪型をしている奴と戦っている。
どんな格好なのかというと、緑色の髪の毛を幾つかに束ねて、その束ねられたひとつひとつを木のようにしている斬新な髪型だ。
森を意識しているのだろうが、はっきり言ってかなり気持ち悪い。
「キャハハハハ―――! 山でこの私に勝てると思わないでよね!」
何というか……髪型同様にかなり気持ち悪い口調で喋る男と俺は、今エルフの村の近くの森の中で戦っていた。
突然村にこいつがやってきて、俺が戦わないと村を壊滅させると言ってきたのだ。
そう言われては戦うしかない。
俺はこいつが投げてきた巨木を剣で切り、その分離した二つの木を剣の腹で思い切り押し出して飛ばす。
しかし、森の土が盛り上がったかと思うと敵の盾となり、木を弾く。
その隙に俺は奴の背後にあった木に対して、種族スキルである「植物操作」を発動させる。
「森の魔王」に木が迫る。
それを意に介する様子もなく、「森の魔王」は防御に使った土の盾をこちらに投げ飛ばしてくる。
俺に迫る土の盾。
「森の魔王」に迫る巨大な木。
しかし、どちらも届く前に砕ける。
俺はスキル「鍛錬強化(大剣)」によって強化された剣を振って土の盾を破壊した。
「森の魔王」も自分のスキルを使って俺の攻撃を止めたのだろう。
「鍛錬強化」というのは、鍛錬しただけ強くなるというものだ。
「武術適性」は最初からある程度の力を得られる代わりに、成長にあまり期待できない。
それに対して、「鍛錬強化」はゼロから始めなければならないが、伸び代が大きい。
そして、「武術適性」はあくまで型にハマった「武術」に対する適性を得られるだけだが、「鍛錬強化」はそういったものに縛られずに自分の技を磨くことができる。
さらに、「武術適性(剣)」の有効武器が剣全般なのに対し、「鍛錬強化(大剣)」は大剣に限定されるので、その分のバランスを取るために伸び代はより大きいものとなっている。
つまり努力をする気がない人には「武術適性」が向いているが、努力を積み重ねられる人には「鍛錬強化」が向いているということだ。
俺は大剣を持って駆ける。
落とし穴を飛んで避け、横から飛んできた植物を切り落とし、「森の魔王」に接近する。
俺はそのまま、「鍛錬強化(大剣)」のスキルと、三十年間にも渡る努力を存分に発揮した極められた剣で「森の魔王」の首を落とした。
「クギャアアアアアアアアアア―――!!!」
「森の魔王」の断末魔が森に響き渡る。
俺は確かに敵が死んだことを確認してからエルフの村に帰っていった。
▼
「お帰りウィンデッド、フェラリーから手紙が届いてるわよ」
家に帰ると、娘からの手紙が届いていた。
だが、その前に……。
「俺が戦ってきたのにそのことについては触れないのか……」
村のために戦ってきたのに、愛する妻にそのことを無視されるのは悲しい。
せめて何か言ってほしかった。
「だってあなたが負けるはずないもの」
その言葉で一転、俺のテンションは上がる。信頼が嬉しい。
気付くと俺は思いっきり妻に抱きついていた。
「昼間からなんて……」
妻が照れて顔を朱く染める。
その時……。
――ピラッ……。
手紙が落ちた。
「「…………」」
しばらく、静寂が空間を支配する。
盛り上がっているときに現実に引き戻されると恥ずかしいものだ。
俺は気恥ずかしさを紛らわすように、黙って手紙を手にとって読む。
『戦いに巻き込まれているから助けてほしい』
要約するとそんな感じだ。
勿論可愛い娘の為なら協力することもやぶさかではない。
しかし、気になることがある。
俺がいない間にこの村を襲い、俺の妻含む村人達をを襲ったテラリア王国の兵士。
そのテラリア王国の王女が娘と同じパーティーに居るという。
もしもこの戦いに王国が参戦するのなら、俺は娘と敵対することになったとしても王国の敵に回る。
俺の妻を強姦した罪を償って貰わなければならない。
俺にとって、娘よりも妻の方が大切なのだ。
▼
「一応エルフの村に手紙を送っておきました。お父さんなら来てくれるかもしれません」
僕はフェラリーの話を聞いていた。
どうやらフェラリーの父親は「風神」と呼ばれ恐れられているSランク冒険者らしい。
そしてそんな人物を「神界」側に引き入れられるのなら、かなり有利になる。
だから、僕とフェラリーは手紙をエルフの村に送った。
今の戦況などを交えて、助けてほしいという旨の手紙を。
僕の今の目的は戦争で勝つことだ。
そのために使える者は使いたい。
「神界」と「魔界」の戦いに人間を巻き込むのもどうかと思うが、勝つためならそれも辞さない。
後は彼が味方についてくれることを期待するだけだ。
さあ、テラリア王国と竜族の村にも手紙を書こう。
こっちにも使える者がいるらしい。
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